トヨタが一途に社員へ叩きこむ「思考の本質」 専門知識を持っているだけでは役に立たない

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トヨタには本質的に頭がいい人を育てる土壌があります(撮影:尾形 文繁)

今年3月、「AlphaGo(アルファ碁)」というプログラムが、「世界最強の一人」といわれる棋士に勝って、ついに囲碁の世界でも人工知能(AI)が人間を打ち負かしたと話題になった。

コンピュータがチェスの世界チャンピオンに勝ったのは1997年だが、囲碁はチェスに比べて次に打てる手の組み合わせが膨大なため、「あと10年はコンピュータが人間に勝てない」と最近まで言われていた。それが「ディープラーニング」という新しい人工知能の技術で、あっけなく実現してしまった。

「理解の深い人」と「理解の浅い人」の違い

ディープラーニングとは、直訳すると「深い学習」という意味になる。人間の脳にある神経回路(ニューラルネットワーク)の構造をヒントに、それを何層もの多層構造にして再現した技術だが、深い理解とか深い学習とは何を意味するのだろうか。理解の深い人と理解の浅い人はどう違うのだろうか。

最新の脳科学の研究によれば、新しく入った情報を「理解する」とは、その情報を「すでに頭の中にある情報とつなげる」ことだという。深く理解するとは、新しい情報が頭の中にある多くの記憶とつながることを意味する。要するに、人間の脳の思考とは、これまでのコンピュータのような論理演算をするものではなく、「パターン認識」で過去の類似した記憶を呼び出すものなのだ。

囲碁や将棋の名人は、過去の名人たちの指した手も多数記憶しており、それをパターン認識で呼び出してきて、打つべき手を考える。目の前の盤面を、より多くの「過去の名人の打った手」とつなげることができるほど、より優れた手を思い浮かべることができる。

AlphaGoはディープラーニングによって、記憶している膨大な過去の手の中から現状に最も適した手を探し出すパターン認識能力が飛躍的に高まったため、予想より10年早く人間の棋士を打ち破ることができた。つまり、人間の思考と同じように、膨大な過去の成功事例の記憶につなげることで、思考力を飛躍的に高めたのだ。要するに「深い思考」とは、知識の量ではなく、知識の間のつながりの多さと関わっている。

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