「四国新幹線」の建設は必要不可欠といえるか 行政・財界は熱望、しかし住民にはあきらめも

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新幹線0系をイメージしたデザインの「鉄道ホビートレイン」。JR四国の予土線を走っている(写真:ssylee / PIXTA)

四国の現在の姿は、1980年代から90年代にかけて筆者が経験した青森県の姿と大きく重なる。青森県は当時、整備新幹線の1路線である東北新幹線・盛岡以北が凍結された状態で、強いフラストレーションを抱えていた。

「岩手県まで新幹線ができたのに、青森県には来ない」「在らざるを憂えず、等しからざるを憂う」といった不公平感が、着工を求める最大の原動力となっていた感があった。

とはいえ、県民の中には、仕事や日常生活で新幹線と接点を見いだせない人も少なくない。何より、長期にわたる凍結期間中、何度となく「新幹線早期着工」が選挙の争点となり、時には恫喝や利益誘導とも取れる言葉が放たれた揚げ句、空振りに終わる展開が重なった。住民には期待感と政治家への不信、諦めムードが入り混じり、「1日も早い着工」を訴える行政や政治・経済関係者との間に、大きな溝があいているように見えた。他の整備新幹線地域はどうだったのだろう。

結果的に、東北新幹線は2010年に新青森駅まで全線が開業し、地元には大きな変化と効果、そして並行在来線の経営分離をはじめとする負の影響が及んだ。

「不公平感」ではなく課題整理を

他の整備新幹線地域も見渡して推測するのだが、開業が遠くに見えるうちは、どの地域でも新幹線構想はおおむね輝いてみえる。しかし、開業が迫り、対処しなければならない課題が具体的に見えてくるほど、地元には期待感と同時に困惑や不満が広がる。

そもそも、「新幹線でなければ解消・解決できない地域課題は何か」を地元が整理し、認識を共有して対策を検討しておかないと、多くの人や組織が返って不利益を被ることになりかねない。加えて、「国」「地方」「県」「地域・都市」「住民」といった新幹線の利害当事者が手にする「地図」「見取り図」は、それぞれ時間的にも空間的にもスケールが異なり、新幹線に期待する「価値」も異なる。

例えば、新幹線駅が郊外に立地したことで、まちづくりが隘路にはまり込んでいる都市は少なくない。整備新幹線構想は、県単位の地域政策と都市・まちづくり政策のずれを浮き彫りにする。

四国新幹線の着工や完成には、まだ相当の時間が必要だろう。その間、四国のどこで、どのように人口が減り、高齢化が進んでいくのか。そして、新幹線は生活環境や経済環境をどう改善できるのか。都市間移動手段の主役となっている高速道路との使い分けは……。非常に困難な予測を宿題として抱えながら、地元は建設促進運動を進めていくことになる。

新幹線が開業済みの地域から、どのような教訓を学び、「新幹線を使いこなせる地域」に四国を再構築していけるのか。「不公平感」「置き去りにされる不安」が先行している間は、新幹線の活用法の議論には至りにくいいのではないか。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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