合理的な人ほど「お客は神様」と考えない 英国のバス運転手が乗客に文句を言えるワケ

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「無理をしない」ためには、「割り切って考える」ことが、重要なポイントのようです。この考え方は、イギリス人の生活態度に共通しているスタンスです。

たとえて言うなら、「100%を目指す」のではなく、「70%でも、目的を達成できているなら、それでいい」――そんな割り切りが、イギリス人の態度につながっているのです。

たとえば、サービス業におけるお客様との関係を見ていても「上手な割り切り」を感じます。

日本には、無理を承知でもお客様のために尽くす「お客様は神様」という考え方があります。とくに、サービス業の場合、そんな考え方を強く持っているばかりに、余計な負担を感じたり、ストレスを大きくしている人が多いでしょう。

片やイギリスでは、どう考えるのでしょうか。たとえば、バスの運転手の場合――。

ロンドンの街中を走る赤い二階建てバスは観光名物ですが、市民にとっては通勤の足でもあります。実はこのバスは頻繁に止まります。故障の場合が多いのですが、原因はそれだけではありません。「バスの運転手がお客さんに文句を言うため」にバスが止められることがあるのです。ある日の帰宅途中、私もそんな場面に遭遇しました。

バス停での停車時間がちょっと長いなと思ったら、やがてエンジンが止まりました。しばらくすると黒人女性の運転手が2階席に上がってきます。すると、直前に乗車してきた女性に向かって一言、言ったのです。「あなたが乗っているかぎり、このバスは動かない!」

これは、運転手と、お行儀の悪い乗客のけんかが始まったことを意味します。事情を飲み込める通勤客は「ああ~、どうするんだよ」と心の中でため息をつき、急いでいる人は後続のバスに乗り換えるために、さっとバスから降りて行きました。帰宅途中の気楽な乗客は、好奇心と共に、ことの推移を見守ろうとします。

運転手の相手である中年の女性は、バス停で長く待たされたことで虫の居所が悪く、乗車の際に余計な一言を言ってしまったのかもしれません。エンジン音が消えて静かなバスの2階席では、ほかの乗客がその中年女性に向かって「あんたが降りないと動かないよ」と呼びかけ、階下からは運転手に向かって「あなたにはプロ意識が欠けている!」と説得を試みる乗客の声も聞こえてきます。こうなると根比べです。

大原則――何事も「割り切って考える」

あらゆる人を相手にしなければならない運転手はストレスのたまりやすい職業でしょうし、多様な人種の集まるロンドンという街では余計に忍耐のいる仕事です。だからというわけではありませんが、客を相手にする商売であっても、ストレスが一定量を超えると、「きちんと」反撃に出ているように見えました。

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