英国とEU、「終わりの始まり」はどっちなのか 「離脱ドミノ」が即座に始まることはない

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6月26日のスペインの総選挙ではEU懐疑派のポデモスが予想に反して伸び悩んだ。「違う結果を期待していた」とイグレシアス党首(中央)。英国の国民投票では働かなかった”危機バネ”がスペインでは働いた?(写真:Agencia EFE/アフロ)

世界中が固唾を呑んで見守った英国の国民投票は、離脱という驚きの結果に終わった。なぜ、多くの人々が投票結果を見誤ったのだろうか。2014年のスコットランドの住民投票での経験を頼りに、最後は態度保留者が無難な残留支持に回るとの"現状維持バイアス"を信じすぎた面は否定できない。

投票直前の議員殺害事件とその後の世論調査で、離脱派の追い上げが止まったと誤認したことにも一因があろう。この事件は人種差別的な思想の持ち主が、人道支援活動に取り組む残留派の議員を狙ったものだった。そのため、移民問題を争点に投票を呼び掛ける離脱派の主張が、「差別」や「憎悪」などネガティブなイメージと結びつき、残留支持に回る有権者が増えるのではないかと考えられた。

また、6月中旬に離脱派の優勢を伝える世論調査が相次いで発表され、一時、金融市場に動揺が広がった。これを受け、改めて離脱時の悪影響を警戒する有権者が増え、残留支持に回るとも思われたが、これも外れた。世論調査はアテにならないと誰もが言っていたにもかかわらず、最後の最後で残留支持拡大の世論調査の結果に引きずられてしまったのは皮肉なものだ。

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改めて投票キャンペーンを振り返ると、確かに誤った情報に基づいて世論を誘導したとの批判はあるものの、離脱派のメッセージは分かりやすかった。「主導権を取り戻そう(take back control)」の短いスローガンを事ある度に繰り返し、英国民が常日頃から感じているEUに対する不満に訴えかけ、共感を広げていった。

対する残留派は、離脱時の悪影響をことさらに強調するばかりで、国民の不満に向き合う姿勢が足らなかったように思える。2月にEU改革案で合意するまではEUの抱える様々な問題点を指摘していたキャメロン首相が、生煮えの改革案で合意した後は一転、合意の成果を声高に強調し、EU残留を訴えたことに不信感を募らせた有権者もいた。

従来、残留支持が多かった労働党支持層が離脱支持に回ったことも投票結果を左右した。残留キャンペーンに積極的に取り組まなかったとして、労働党内では現在、コービン党首下ろしの風が吹き荒れている。

離脱が残留を上回る投票結果を受け、残留派の市民からは国民投票の再実施を求める声が高まっている。国民投票に法的拘束力はなく、残留支持が多数派を占める議会が離脱手続きの開始を止めることは可能だが、議会が投票結果を無視することは難しい。また、スコットランドのスタージョン第一首相は、スコットランド議会が英国のEU離脱を阻止する意向を示唆している。だが、スコットランド議会にEU関係での英国議会の決定を覆す権限はないとの見方が一般的だ。

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