サーブ、欧州の名車ブランドが消滅する意味 自動車ブランド構築の流れが変わってきた

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さらに、21世紀に入るとサーブを吸収した側であるGMの経営が急速に悪化、2009年にはスウェーデン政府にサーブの救済を求めたものの、これが拒否されたことでサーブ・オートモービルは経営破綻に追い込まれる。

2010年初頭にはオランダのスーパースポーツカー・メーカーであるスパイカーがサーブを買収、しかし事業の収益化は見込めずサーブ車の生産は中断、中国でクリーン・エネルギー関連事業を手掛けるNMEホールディングへ2012年8月に転売された。

中国の自動車メーカーは(中国市場では)十分な資本と技術を持っていても、ブランドを持たないことで苦労していたため、海外の歴史あるブランドやデザインを手に入れることに躍起になっていた。

サーブはNMEホールディング傘下で中国とスウェーデンに拠点を置き、中国の3大自動車メーカーである東風汽車や日本の半導体大手ルネサスと提携を結んでいるNEVSのブランドとして、9-3のプラットフォーム上にEVのパワートレインを搭載した量産車として生まれ変わり、2020年までに中国で15万台の供給を目指していた。

量産EVはサーブの商標を使用しない

しかし、2017年に開始される予定のこの量産EVはサーブの商標を使用せず、NEVS自らの商標を使用することになったという。9-3のプラットフォーム技術だけを残してサーブの商標を売却することも考えられるが、おそらくこの約10年間で徹底的にイメージが傷ついてしまったサーブ・ブランドを再生するよりも、新しいEVを訴求するにあたっては新しいブランドを打ち出したほうがいい、と判断したと考えるのが自然だ。

事実、EVで世界をリードする米国のテスラ・モーターズは、既存の自動車ブランドとはまったく縁もゆかりもないところからスタートして現在の世界的な注目を集めるに至っている。

今年のジュネーブ・モーターショーには数多の無名ブランドが、EVの高出力パワーユニットを搭載したスタイリッシュなスポーツカーで注目を集めていた。

自動車ブランドとしてのサーブの消滅は、世界の自動車ブランド構築の流れが変わってきたことの証しなのかもしれない。

真田 淳冬 コラムニスト

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さなだ きよふゆ / Kiyohuyu Sanada

メーカーはじめ自動車業界に長らく籍を置き、1950年代から現代に至る世界中のさまざまな乗用車をドライブした経験を持つ。歴史、経済、技術といった分野をまたぐ広い知見を買った東洋経済オンライン編集部が独自に著者として招いた。

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