(第4回)温暖化で期待される金融の活躍~私たちがお金の流れを変える

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●市民が影響を与える融資行動

 こうした世界の動きの背景には、市民の活動と意識の高まりがありました。「私のお金を使わないで!」。2000年にニューヨークのマンハッタンにこんな横断幕が掲げられました。環境NGO(非政府組織)であるアメリカのRAN(熱帯林行動ネットワーク)を中心とするグループが「環境破壊につながる融資を止めさせる」というキャンペーンを金融機関に行なったのです。攻撃対象になったのはアメリカのシティグループでした。シティとの戦いは4年間続きましたが、態度を変えたシティはまず南米での鉱山開発プロジェクトから手を引き、その後は社会に対し環境保全に取り組む姿勢を鮮明に打ち出したコミットメントを発表したのです。

 その中で、シティは「環境の保全、貧困の撲滅、そして経済の成長」という3つの世界的課題に取り組むことを公約したのです。2007年にはなんと5兆円の資金枠を用意して、環境関連ビジネスへの融資や自らがグリーンになるための投資に使うと発表したのです。更に、今年2月、シティは他の金融機関とともに「炭素原則」を打ち出しました。温暖化を止めるために、再生可能エネルギーを伸ばすためのビジネスや省エネへの投融資の拡大と石炭火力発電所への厳しい方針を打ち出したのです。米国を含む世界では、CO2をたくさん排出する石炭火力発電所はいま嫌われ始めました。もっとクリーンに焚かない限りお金は出せないといったのです。

 この市民からの声を銀行に届けるという活動に、私は強いインパクトを受けました。これまで誰も気に留めなかった銀行のお金の流れていく先を、社会がもっと監視しようという動きです。銀行の融資が環境や社会にどんな影響を与えているのか、社会はもっと関心を持つべきとの意見に、私は大賛成です。日本で見られない「行動」は時としていろいろな反応を引き起こすでしょうが、最後は市民がその行動を支持する限り、その功績は称えられていいでしょう。

 米国の名だたる銀行がこの活動に最終的に賛同したのは、市民の声を聞かないとやがては市民から嫌われ、競争も不利になると判断したのでしょう。いや、それだけでなく、経営者が市民の声が正しいと思ったからに違いありません。長い銀行の歴史の中で「預金がどう運用されて、その結果として何が起きたのか」について、これほど市民社会からの監視を受けることはありませんでした。新しい時代の幕開けといっていいでしょう。
 日本においても、市民や預金者はもっと銀行に預けたお金の使われ方に関心を持ち、「温暖化を止めることにお金を回してほしい」「環境を守る企業に投資をしてほしい」と声を上げることが必要になってきました。市民が変われば金融をも動かせるのです。

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