円安に頼る経済政策を終わりにする時が来た 円高で実質賃金と個人消費は増加に転じる

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おまけに、多くの中小企業はこの構造的な人手不足のために、たとえ今の採用に結びつかなくても、将来の採用もにらんで無料のハローワークにおける求人を積み上げています。少子高齢化によって求人倍率の分母となる求職者数が減り続けているのに、人手不足から分子となる求人数が必要以上にかさ上げされているので、有効求人倍率は実態よりも高めに出る性格を持っているのです。

確かに、有効求人倍率の上昇は喜ばしいことではありますが、「経済が好調だから、有効求人倍率は高水準が続いているのだ」という主張は、時代の変化に取り残された経済学のステレオタイプ的な浅はかな考えであり、アベノミクスの成果とはとてもいえないでしょう。

次に②の税収の増加についても、GDPが2013年以降ほとんど増えていないことを考えると、決して素直に評価できるものではありません。それは、3月27日の『政治家の皆さん、もっと経済を勉強しなさい』でも論理的に証明しましたように、税収の増加は決して企業活動の活性化によってもたらされたわけでなく(2013年以降も日本企業全体の売上高は増えていない)、その大半が「円安によるインフレ税」と「消費増税」という家計への二重課税によってもたらされたものであるからです。

実質賃金はリーマン期並みに下落している

「輸入品の価格水準を示す輸入デフレーター」と「消費者物価の上昇率」は見事に一致していますし、その結果として、円安により企業収益が増えた一方で、輸入インフレにより家計の可処分所得が減ってしまったというのは、2013年~2015年の実質賃金の下落率が4.6ポイントという事実を見ても明らかなことではないでしょうか(私の推計では、実質賃金の下落率4.6ポイントのうち、2.6ポイント以上が輸入インフレによるもの、2.0ポイント以下が消費増税によるものです)。

そのうえ、2012年度の税収については、2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災による二重の税収減に見舞われていたという現実も見逃してはいけません。当時は欠損金の繰り越しにより、トヨタやメガバンクですら法人税を納めていなかったのですから、その他の大企業や中小企業も押しなべて法人税額が少なかったのは言うまでもないでしょう(もっともメガバンクはリーマン・ショック前も欠損金繰り越しで法人税を支払っていませんでしたが)。

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