ロンドン地下鉄の「廃駅探険ツアー」は超レア 大英帝国が誇る100年超の鉄道遺産を活かす

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廃止されたオルドウィッチ駅のホーム。廃車となった車両も当時のまま置かれている

ガイドからの簡単な挨拶と説明の後、階段を使って地下へ降りていく。もちろん、エレベーターは撤去されてすでに無いので、階段を使うしかない。チケット購入の際の注意書きに、足の悪い方や高齢者は、急な階段の上り下りがあるため参加できないという旨の記載がある。

延々と続く螺旋階段を降りていき、プラットホームのある最下層へ出た。この駅には2つプラットホームがあり、1つは前述の1917年に廃止され、すでにトンネルも埋められている状態のものだ。

もう一方は1994年に廃線となるまで使用されたもので、トンネルも線路も、その当時の状態のまま残されており、整備すれば今すぐにも復活できるだろう。プラットホームも当時のまま残されている。古いポスターがそのままの状態で貼られていたり、路線廃止により閉鎖されるとの告知案内もそのまま残されていたりする。線路上にはノーザン線で使用され、1999年に廃車となった車両が当時の状態のまま、留置されていた。

「産業遺産」保存は日本にも根付くか

これらの施設は、長い歴史の中で様々な用途に使用されており、中でも多いのはテレビや映画の撮影で、珍しいところではロックバンドのコンサート会場として使用されたこともあった。戦時中には空襲から逃れるため、市民の防空壕として活躍したが、近所にある大英博物館から美術品を移送し、一時的な保管庫として使っていたこともある。その時の様子は、プラットホームにパネルで展示されていた。最後は、再び長く深い螺旋階段を息を切らしながら登り切り、約1時間のガイドツアーは、あっという間に終了した。

日本の場合、それが地下であれ地上であれ、廃止された駅などの鉄道施設が、遺構としてそのまま保存されることは少なく、たいていの場合は取り壊されたり埋められたりする。また車両も、「名車」と呼ばれるひと握りの車両は博物館で保存されるものの、大半の車両は保存されることなくスクラップになるのが現状だ。

それは、建物の場合は老朽化や地震などによる崩壊の危険を防ぐためであったり、また車両の場合は保管する場所や維持費の問題であったりするだろう。とはいえ、今後ますます増えていくだろう鉄道産業遺産を、きちんと保存・維持できるような風土に、日本も育ってほしいと切に願っている。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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