次は3月危機? 燻る「財政の崖」問題 景気・経済観測(米国)

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また、住宅市場の回復が消費を後押ししている点も見逃せない。住宅は、家計が保有する主要な資産のなかでも最大の割合を占め、かつ中・低所得層でも幅広い世帯が保有しているため、その経済波及効果は株価上昇に勝るとも劣らないといわれているからだ。

実際、住宅市場は順調に回復している。11月の住宅販売件数は、新築と中古を合わせて年率541.7万件と、前年に比べ1割以上増加した。バブル崩壊後に一時12.2ヵ月まで上昇した在庫月数(在庫件数÷販売件数)は、今や4.8ヵ月と7年ぶりの低水準だ。

こうした需給環境の改善を反映し、全米平均はもとより、ロサンゼルスやフェニックス、アトランタなど、住宅バブル崩壊の影響が大きかったとされる主要都市でも、住宅価格は上昇に転じている。

3月には再び歳出の強制削減が控える

このように財政協議を巡る混乱にもかかわらず、これまでのところ実体経済は、緩やかながらもしっかりとした足取りで回復している。しかし、この傾向が今後も続くかどうかは予断を許さない。99%の納税者に対するブッシュ減税失効が回避されたとはいえ、一昨年に実施された給与税減税の失効など、新たな負担増が米国経済のエンジンである消費の足かせとなりかねないからだ。

タックスポリシーセンターによると、今月から77.1%の世帯で税負担が増え、年収4~6万ドルの中間層といわれる世帯では、700ドル程度の増税になるとみられている。家計がこうした負担増にどこまで耐えられるのか、景気の先行きを推し量る上で重要なポイントとなろう。

また、ワシントンの動向にも引き続き注意が必要だ。既に述べたように、3月には再び歳出の強制削減が控えている。共和党のベイナー下院議長は、債務上限の引き上げと引き換えに、歳出削減を迫るとみられており、財政再建を巡る協議が難航すれば、債務不履行というリスクも現実味を帯びてくる。

仮に、債務不履行が回避されたとしても、債務上限引き上げを巡る瀬戸際戦術が、金融市場を通じて経済に悪影響を及ぼすのは、2011年夏の経験からも明らかである。政治の機能不全がもたらす悪夢が再び繰り返されるのか、しばらくは与野党協議の行方を注意深く見守る必要がありそうだ。

服部 直樹 みずほ総合研究所エコノミスト

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はっとり なおき

2009年神戸大学経済学部卒業後、みずほ総合研究所入社。12年11月よりニューヨーク事務所駐在。米国担当エコノミストとして、雇用動向や個人消費、住宅市場、金融政策などの分析に従事。

 

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