前代未聞!オリンピック目前に非常事態宣言 ブラジル・リオ州財政危機で不安高まる

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また、国立経済社会開発銀行(BNDES)が各州に対して設定している与信枠の期限についても10年間延長されるとしており、当面の資金繰りを連邦政府が支える見通しである。なお、メイレレス財務相は一連の債務軽減措置によって、連邦政府は向こう3年間で500億レアル(約1.5兆円)のコストを背負うことになるとの見通しを示している。

ブラジルでは今年5月、議会上院においてルセフ大統領に対する弾劾手続きの可否を巡る審議が行われた結果、同大統領が最大で180日の職務停止措置を受けるとともに、テメル副大統領が代行する形で暫定政権が発足している。

暫定政権は上述の通り過去2代にわたる左派政権の下で歳出拡大策が採られたことで、足元で財政悪化に歯止めのかからない状況に陥っていることを受け、歳出削減をはじめとする財政緊縮策を通じて債務負担の安定化と債務削減を図る方針を打ち出している。

5月末に議会が可決した今年度予算案においては、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を1705億レアル(約5.2兆円)の赤字と見込んでおり、過去最大の赤字幅となる。しかしながら、この数字を実現するにも多額の歳出削減が前提となっていることを勘案すれば、州政府に対する一連の債務軽減策の実施は財政健全化に向けた暫定政権の取り組みにとって足かせとなろう。

大統領代行にも汚職疑惑、国民は年内再選挙求める

また、暫定政権は発足してから1カ月強しか経っていないにもかかわらず、すでに3人の閣僚がペトロブラスを舞台とした汚職問題に対する捜査(ラヴァ・ジャット作戦)を妨害した理由で辞任するなど、早くも窮地に立たされている。さらに足元では、テメル大統領代行自身は関与を否定しているものの、同氏にも汚職疑惑の目が向けられており、早くも暫定政権に対する支持率は10%前後とルセフ政権末期と並ぶ水準にまで低下しているほか、直近の世論調査では国民の半数以上が年内の再選挙を求めている。

オリンピック並びにパラリンピックは、われわれ日本人にとっては、「国民的イベント」という意識が強いが、現下のブラジルでは、ルラ及びルセフと2代続いたPT政権による「置き土産」といった見方もある。長期にわたる景気低迷に伴い多くの国民が苦境に立たされ、PT政権に対する批判が高まるなかで、国民の意識はイベントの成功に向かっていないともされる。

リオでのオリンピックとパラリンピックの開催自体には問題はないと考えられるが、治安の問題を含めて懸念要素は山積している。それ以上に、ブラジル経済及び財政、さらに政治を取り巻く状況は一段と厳しさを増しているといえよう。

西濱 徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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にしはま・とおる

一橋大学経済学部卒、国際協力銀行(JBIC)で、ODA部門(現、国際協力機構(JICA))の予算折衝や資金管理、アジア向け円借款の案件形成・審査・監理やソブリンリスクの審査業務などを担当。2008年より 第一生命経済研究所、2015年4月より現職。担当は、アジアをはじめとする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析

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