私が“株高予想”を信じないワケ 株価が上がっても構造問題は深刻化

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新年に乱発される当たらないアナリストレポート

さて、グローバル金融業界の新年の風物詩といえば投資銀行各社が発行する新年2013年株式相場見通しレポートである。毎年証券各社が、2013年の株価展望や経済見通しなどの当たらないレポートを出しまくる。

そしてたいていは“ストロングバイ”で日本株を薦めてくるのだが、これを真に受ける機関投資家はいない。というのも、投資銀行は顧客に株を売買させてなんぼのビジネスなので、とにかく株を売買させようと躍起になったレポートを書きまくることを、われわれ投資家は重々承知しているからだ。

レポートの内容はたいていひどく、ウサギ年は株価がはねる、とか、巨人が優勝したら歴史的にブルマーケット、とか、よくもまぁこんなレポートを恥じらいもなく出せるな、と読んでいる顧客の私がハラハラさせられる。セルサイドアナリストがレポートを出す時は、社内のコンプライアンスチームからお墨付きをもらうものだが、お墨付きを出してはいけない質の低いレポートが大量に投資家のデスクに届けられる。ちなみに毎日何十冊といったアナリストレポートが届けられる機関投資家は、それらの冊子を読まないどころか開きすらもせず、自動的にシュレッダーにかけるケースも多い。

大量に送られてくる、1枚500円位しそうな立派なクリスマスカードとともに、この大量に送られてくる誰も読まないレポートをPDF・電子化するだけで、ブラジルの森林がどれだけ救われる事だろう。

(なお、私のビジネスパートナーの名誉のために付け加えておくが、私を担当してくれていたアナリストやセールス、私の所属企業は全て素晴らしいサービスと高い倫理観で顧客の利益最大化のために尽力してくれていた。私は本稿であくまで一般論を語っており、私の周囲にいる方々を指しているわけではないことを追記しておく。)

鉛筆なめなめで作る、“専門家”のいい加減な予想

さて、株価や為替の展望だが、いわゆる“専門家”の皆さんが出すレポートの大半は的外れで、うちわずかなレポートが少し当たるわけだが、その理由は単なる偶然である。たとえば今円安が進み、株高のモメンタムがあるので2013年展望ではたいてい円は95円から100円、株価は12000円から13000円を狙う、などと適当な目標価格がつけられるものだが、実はそこにまともな理由は存在しない。

一応ユーロ経済が底打ちし、アメリカ雇用統計も改善し、日銀の一層の金融緩和期待が……ともっともらしい後付けの理由が付け加えられるが、何のことはない、最近上がっている株価と、安くなっている円の直近のモメンタムの延長線上に、鉛筆をなめなめして10%~20%上乗せしているだけ、というのが“大半のプロの目標株価”の正直なところである。

なお逆に円が高くなりだすと、変なしゃべり方や髪型の“タレント教授”の皆さんが 「円は60円 になってもおかしくなく、本格的に世界恐慌が」と言い出し、“不安をあおれば本が売れる”とばかりにタチの悪い書籍を世に出してヒト稼ぎする。しかし寛容な読者の皆様は、彼ら・彼女らの予言が数カ月後にすべて外れても一切水に流し、引き続き”専門家“として日曜の朝に偉そうにテレビでコメントするのを許してしまうのである。

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