「米国に続き日本でも陰り見えた不動産市況」リチャード・カッツ

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東京と地方の地価動向に見られる乖離

 しかし、日本経済の動向を占ううえで、不動産市場の動向は非常に重要である。不動産価格の上昇が終われば事務所や住宅の新築件数が減少し、住宅関連商品の購入が減る可能性があるからだ。

 投資家やデベロッパーが夜も眠れないような状況に陥る兆候があるとすれば、それは何であろうか。一つは、最も人気のある地域以外の価格動向である。千葉県の郊外では、イトーヨーカ堂が店舗の退去をほのめかして固定賃料を3割以上も引き下げさせたという。同じく千葉県郊外のマンションでは、駅に近いにもかかわらず、400戸のうち50戸が長期間にわたって売れ残り、値引き販売が始まっている。こうした状況は、高価格にもかかわらず発売初日に完売となった千代田区のマンションと好対照である。東京のオフィスの平均家賃は8月に1%上昇し、連続25カ月の上昇となった。東京のオフィス需要はブームが続いているものの、郊外の住宅市場は軟調となっている一例である。

 他方、不動産経済研究所によれば、多くの場所で新規発売のマンションの契約率は好不調の分かれ目を示す70%を下回りつつある。東京23区の4月から9月までの契約率は、前年同期と比べて6ポイント下落したがなお76%にとどまっている。しかし、埼玉県では13ポイント下落して60%になっている。神奈川県では16ポイントも下落して68%にまで落ち込んでいる。つまり、マンション価格は上昇しているとはいえ、販売戸数は確実に減っているのである。

 もう一つの懸念は、アメリカのサブプライム危機に歩調を合わせるかたちで、日本の行政当局が規制を強化していることだ。日本銀行と金融庁は、銀行が不動産投資に過剰融資をしていないか、融資基準が十分かどうか調査している。この影響は実体経済にも表れている。借入金のリファイナンスができなくなり、返済のため手持ち物件の売却を強いられたJ・REITも出てきた。

 最大の懸念材料は、東京の不動産価格の上昇が他の地域に広がっているのか、逆に他の地域にダメージを与えているか判然としないことだ。これについてはプラス、マイナス両方の現象が見られる。プラス面では今年7都市で不動産価格が20%以上上昇している。昨年、不動産価格が上昇したのは東京と名古屋だけであり、県庁所在地の多くでは依然として不動産価格は30%から19%下落していた。だが今年1月の路線価は12県において前年同月比で上昇している。1年前は5県だけであった。

 しかし、下落も見られる。19県の住宅用地の平均価格は東京よりも10%以上低い。46道府県で02年から07年の間に東京の地価に近づいた県は一つもなかった。東京と地方の住宅用地の価格差は拡大し、最も大きく低下した県はいずれも東京と大阪の近県である。大都市間でも格差は開いている。大阪の不動産価格は東京を100%とした場合に61%だったのが46%へ低下した。神奈川の価格は東京に比べ67%から61%に落ちた。すなわち、東京の価格は地方だけでなく近県の都市を犠牲にして上昇しているように見えるのだ。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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