地震の多い日本は「ミニマリズム」が実用的だ シャツ3枚、ズボン4着、靴下4足

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 6月19日、フリーライターの沼畑直樹氏は、ミニマリズムは禅宗の世界観から自然に派生したと説明する。写真は沼畑氏のキッチン。都内で3月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 19日 ロイター] - 佐々木典士(ふみお)さんが東京で住むワンルームのアパートは、あまりに殺風景なので、友人たちからは取調室のようだと言われている。シャツ3枚、ズボン4着、靴下4足、そして、わずかな他のアイテムが、佐々木さんの所有物だ。

カネの問題ではない。編集者の佐々木さん(36)は、日本で増えている「少ないほど豊か(Less is more)」というライフスタイルを選択した1人だ。

禅宗の余分なものがそぎ落とされた美学に影響を受けた「ミニマリスト」たちは、持ち物をとことん切り詰め、消費社会に背を向けている。

かつては本やCDやDVDを熱心に収集していた佐々木さんだが、2年前、流行を追いかけることにうんざりするようになったという。

「どこかで満足することがない。足りないものばかりに目が行っていた」

佐々木さんはその翌年、持ち物を売ったり、友人にあげたりした。

「物がなければ掃除も簡単だし、買い物する時間も少ないので、時間が圧倒的に増えた。その分、休みの日に友人と家で過ごしたり、旅したりと、行動力が上がったかなと感じている」と佐々木さんは話す。

また、米国でも一世を風靡(ふうび)した片づけコンサルタント、近藤麻理恵氏の整理術にもあるように、本当に好きなものだけを所有するという人たちもいる。

「人と比べて物が多かったわけではないが、自分の好きな物だけかと言われるとそうではなかった。それに違和感を持ち始めたのがきっかけ」だと語るのは、オンライン出版の編集者である豊田勝也さんだ。豊田さんの持ち物は、22平方メートルのアパートにテーブル1つと布団1組だけだ。

「自分の好きなことを浮かび上がらせたいと思って、このミニマリズムを始めた」と豊田さんは語る。

日本のミニマリストに刺激を与えたのは、アップルの共同創業者、故スティーブ・ジョブス氏など米国の支持者たちだ。

その定義はさまざまだ。ゴールは、単なる片づけにとどまらず、所有の意味を再評価し、他の何かを得ることだ。佐々木さんの場合は旅する時間が得られた。

こうしたミニマリストたちが何人いるかは不明だが、佐々木さんたちは本格的なミニマリストは数千人いると考えている。興味のある人はさらに数千人いるのではないかとみている。

ミニマリズムは実際には外国から来たのではなく、禅宗の世界観から自然に派生したと主張する人もいる。

「西洋では物を置いてコンプリートさせるが、(茶道や禅では)わざと不完全にして自分のイマジネーションで補うことで完全になるという考え方」だと、フリーライターの沼畑直樹氏(41)は説明する。

ミニマリストたちはまた、持ち物を少なくすることは、頻繁に地震が起きる日本では特に実用的だと主張する。

2万人近くが犠牲となった2011年の東日本大震災後、多くの人が持ち物を見直していると、佐々木さんは言う。

「地震によるけがの3割から5割は物が原因のようだ。だが、この部屋なら、その心配は必要ない」

(MEGUMI LIM記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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