マイクロソフト退場後のCESはどうなる? 新年の恒例イベントは様変わり

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講演をやるには舞台装置、ビデオ、デモソフトの製作、ゲストの手配など大きな仕掛けが必要であり、数カ月かけて準備を行う必要がある。この作業に専念するスタッフも大勢必要だ。しかし、どれだけ丹念に準備をしても聴衆からの評判があまり高くないようでは、続けても意味がない。

そもそもマイクロソフトを特等席で講演させる、というスタイルそのものも形骸化していた。かつては、「コンピュータのことには疎い家電業界の人々が集まる展示会の冒頭に、ITのビジョナリーであるゲイツが今年のITのトレンドを説明する」という意味があったのだが、もはや家電業界とIT業界の融合は進んだ。マイクロソフトがビジョンを示してイノベーションを先導していくイメージは、すでになくなって久しい。

パナソニック社長の基調講演は初

では今年、マイクロソフトのバルマーの後任として前日夜の講演を行うのは、誰なのか。昨年7月に主催者は、クアルコムのポール・ジェイコブス会長の名前をアナウンスした。

ジェイコブス会長は昨年のCESでは初日早朝の講演を担当しており、1日前倒しになっただけだ。クアルコムは、スマートフォンなどのモバイル機器に使われる基幹半導体の大手であり、時代の寵児ともいえる。ただ、半導体メーカーゆえにあくまで黒子企業。マイクロソフトのような知名度はない。マイクロソフト撤退により、明らかに前日夜に行う特別講演の意味合いは変わった。

昨年のクアルコム枠である初日(1月8日)早朝の講演を担当するのは、パナソニックの津賀一宏社長である。4つあるCESの基調講演枠を埋めたのは7日夜がクアルコム、8日早朝がパナソニック、8日夕方がベライゾン、9日朝がサムスン電子だ。

意地悪な見方でちょっと気が引けるのだが、このうちパナソニックだけが異色だ。唯一、調子の悪い会社なのである。各社の直近期決算の最終利益をみると、クアルコム(2012年9月期)が64億ドル、ベライゾン(2011年12月期)が102億ドル、サムスン電子(2011年12月期)が13兆ウォンと好調な企業ばかりだ。その中にあって、パナソニックの2012年3月期は8128億円の赤字。しかも2013年3月期も巨額赤字が続く。

「パナソニック社長」が講演をするのは今回が初めてだ。日本企業からの基調講演はソニーとパナソニックの2社が常連。ソニーからは社長当時の安藤国威氏、ハワード・ストリンガー氏が講演をしているが、パナソニックの場合は社内カンパニーであるAVCネットワークス社社長の役割だった。

1500人ほどの聴衆を前に、就任1年目の津賀社長は何を語るのか。1月8日の講演に注目だ。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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