中国海軍に対する日本政府の抗議は筋違いだ 「抗議」ではなく「仕返し」をする必要がある

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さらに通航をする際の事前許可や事前通報も不要としている。ある意味で日本の領海内における航行は完全に自由なのだ。今回、中国は従前から認められている権利を行使しただけであり、それに抗議するのは筋違いである。

今回の抗議の論拠は、日本の海洋法に対するスタンスともまったく合致していない。

日本がこれまでに主張してきたこととは?

日本の立場は、「海を自由に使いたい」というもの。海洋国であり、海上輸送や航空輸送から大きな恩恵を受けている。このため航海の自由や上空通過の自由を広く認め、他国にもそれを求める態度を取ってきた。

例えば、中国が進めている国際法独自解釈への反対がそれだ。最近では、東シナ海に中国が設定した防空識別圏について反対の意思を明確にした。中国は領空の外まで管轄権を主張したが「上空通過の自由が侵害される」と抗議をし、自国の民間航空会社にもその要求を無視することを求めた。

今回の抗議はこの時の立場に反している。日本は中国軍艦の接続水域通過や領海の無害通航を問題視したわけだが、これは従来の主張である「接続水域での活動は沿岸国からの制約は受けない」や「無害通航には許可や事前通報は不要」といった主張とは相いれないものだ。

従来のスタンス、航海の自由や上空通過の権利を重視し、中国の国際法の独自解釈に対抗してきたことからすれば、今回の抗議は筋が通らない。その意味で論外ともいえる抗議なのである。

なによりもおかしな点は、事件の本質と対応がズレていること。今回の事件は接続水域や領海の通過そのものが問題なのではない。にもかかわらず、そのことに抗議した点が対応としてピント外れだ。

冒頭にも記したが、日本として看過できないのは「尖閣ゲーム」のルールに中国が違反した点である。

尖閣問題では日中間に暗黙のルールがある。これは相互に無駄なエスカレーションを防止するといったものだ。「現地での対立には軍艦を使わずに巡視船を使う」や「政府は互いに国民感情を刺激することはしない」がそれにあたる。

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