エチオピアには世界レベルの起業家がいる 古タイヤを使ったおしゃれな靴で大成功

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エチオピアは世界でも最貧国の1つ。巨額な援助金が米国、イギリス、欧州などの先進国から入っている。たとえばエチオピアはイギリスから開発資金として年間3億ポンド(約444億円)を受けている。国連の存在も大きく、ほかにも日本のJICAを含め、数多くの政府系開発組織や国際NGOが国内のあちこちで食糧、水、保健などの人道支援活動や開発プロジェクトを行っている。

けれどもベツレヘムは、人々が援助に頼りきることに危惧感を持つ。寄付や援助よりもビジネスの力を信じている、と断言する。「誰もが自分の足で立つことが必要です。なぜならそれこそが持続可能だからです。援助はすべてを壊してしまいます。援助によって行われているあるプロジェクトが突然なくなってしまったら、どうするのでしょうか。そのプロジェクトに頼りきっていたら、すべて失ってしまいます」。

そして次のように続けた。「よく『エチオピアでもビジネスが大切なのはなぜですか?』と聞かれます。けれどもこれはおかしな質問です。そのようなことを聞くのはここがアフリカだからです。日本も米国もビジネスで成り立っている国ですが、誰もそうは聞かないはずです」。

安い賃金は持続可能ではない

会社の従業員に対しては、エチオピアの平均的な賃金の4倍は支払っている。「仕事は持続可能であることが重要だと信じています。安い賃金は持続可能ではありません。貧しい父親を持った私は、エチオピアの人たちに、安い賃金しかもらえなかった父親のような労働者になってもらいたくないのです。自分の力で学校に行けること、靴を買えること、そういう力をつけるようにならなくてはいけません」と強く語る。「私は自分のビジネスを通じて利益だけを追求するのではなく、人々の意識を変えることが必要だと思っています。なぜならそれは共同体や社会を変えることにつながっていくからです」。

家庭では5歳から10歳まで、1男、2女の3人の子どもの母親でもある。子どもが小さい頃は仕事と家庭のバランスを取るのは比較的楽だったが、最近は子どもたちも育ち盛りになり、あれこれと要求が多くなり大変になったと笑いながら話す。母親と夫にサポートしてもらいながら仕事とのバランスを取っているという。

エチオピアは保守的な国だ。家事を担当するのは今でも主に女性であるし、公的な場所では女性が表に立つのを回避する風潮が根強い。そのような国だが、最近女性起業家が少しずつ増えている。「自分はそのような女性たちの先駆者として、『彼女ができるなら私もできる』と啓蒙し、刺激を与えてきたかなと思います」とベツレヘムは話す。

ブランド名ソールレベルズのソール(sole)は英語で“靴底”を、レベルズ(rebels)は“反逆者たち”を意味する。「私はいつも、ほかの人たちとは違うことをしたいと思ってきました。人と同じことをするのは面白くないからです。常識にとらわれずに物事を考えること、そしてそれを行動に移し、それにより人々の意識を変えるんだ、という思いでこのブランド名をつけました」と情熱的に語る。「そして、私の役割はエチオピア人たちを支えるための環境を作ることだと思っています」。

(文中敬称略)

上野 きより ジャーナリスト、元国連職員

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うえの きより / Kiyori Ueno

ブルームバーグ・ニュース東京支局、信濃毎日新聞社などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部、エチオピア、ネパールで働き、食糧支援に携わる。2016年から独立。慶應義塾大学卒業、米国コロンビア大学院修士課程修了。東京出身

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