日本の河川堤防は集中豪雨に耐えられない 元国交省河川局長が明かす「不適切な事情」

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日本の水資源を基に国土交通省が作成。(財)リバーフロント整備センターにより一部修正 (竹村氏提供)

異常気象の理由をあえて挙げれば温暖化なのかもしれないが、実際に過去100年間の降水量データを見ても、振れ幅は確実に大きくなっている。

これ以外にも、たとえば厳島神社の神官の日誌によると、1990年代に年0〜4回だった回廊の冠水回数は、2001~06年には年7〜22回へと急増している。

こうした状況だが、ダムや洪水に関する各省の計画の前提は昭和40〜50年代に決まって以降、変更されていない。つまり、計画はいまだに、大正期から昭和30年代ごろまでの古い統計に基づいたままなのだ。これは当時、客観的にやるために「過去のデータ」しか使えなかったためだ。「失敗したわけではないが、適切ではない」と言うべきだろう。

練り直しは財政的に不可能

――いくら何でも、それでは実態に即さないのでは。最近のデータを基に計画の想定を変えようという動きはないのか。

ない。エンドレスになってしまうから。 昭和30年代ごろまでのデータに基づいて100年に1度の洪水に対応できるよう計画を立てているわけだが、仮に気象変動が激化した後の2010年までのデータを基準にしてしまうと、インフラなどのハード整備はすべてやり直しになる。

われわれはそれをやらないと宣言した。気象が凶暴化して安全率が下がったとしても、財政的にできこっないと分かっているから。情報伝達による注意喚起を進めるなど、ソフト面を中心に対処するしかない。

――だが、東日本大震災などで国民の意識も変化しているのでは?

確かに東日本大震災以降、日本人の災害への意識が変わってきたのも事実。マスコミは治水事業にずっとアンチだったけど、あれでガラリと変わった。現在では毎年3月11日ごろになると、テレビが年ごとにテーマを定め、当時の鮮明な映像を使った番組を流すから。

それまでは台風の写真などが残っていても何度もリマインドして使うわけにもいかず、地震も揺れている最中をとらえるのは難しいから意外に映像になりにくかった。でも、津波の映像を見てみんな自然のおっかなさを認識した。それでも、やはり、意識自体を変えることは難しい。

――以前の寄稿では、日本各地の堤防は江戸時代に作られたものが多く、どこでも決壊が起こりうると指摘した。特に危ない地域があるとしたら?

 ほとんどすべてだ。明治以降に開拓が進んだ北海道を除くと、日本の堤防の99.9%は江戸時代に作られたものだから。戦乱が落ち着いて平和になり、稲作を進めるなどの目的で各地の「ヤマタノオロチ」のような複雑な分岐を見せていた川を強引に一本に押し込めたりした。

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