ネットでの評判が気になる人、ならない人 結局、みんなが知りたいのは他人の年収だ
中川:それでそのままなんとなく、東京の西側に居着いてしまうと。
速水:そうそう。東京の住まい選びにおける西側偏重って、そんな背景も一因にあるわけです。ただ、10年くらい前に山手線の内側(文京区)に引っ越して、繁華街から古い街並みの残る落ち着いた住宅街に引っ越したら、街の構造が変わって、遊び方とかも変わったんですよ。折しもバルブームのはしりだったりして、住宅街の路地に気の効いた飲食店が増えていった時期で。「ん、ちょっと面白いことになってきているぞ」と気になっていったんです。
ものすごく小さなところから深掘りしていく
中川:それが『東京どこに住む?』を書くことになるきっかけなんですね。
速水:ええ、大きなきっかけのひとつです。僕が興味や関心を持って、「本にまとめてみたいな」と考えるようになる事柄って、目の前にある本当にちょっとした変化とか、そのときは誰も気にかけず、話題にもしないようなものが多いんですよね。たとえば、ラーメンの本を書いたときも、「なんでこのラーメン屋だけ、いつも行列ができるんだろう?」ってところから着想を広げたのが最初ですから。
中川:『ラーメンと愛国』ですね。
速水:そうです。それから『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』を書いたのも、最初は「どうして最近、病院にスターバックスが入るようになったんだろう?」というのが気になって、いろいろ調べていった結果ですから。今回の本も、それこそ住宅街にイイ感じの飲食店ができたりとか、川沿いに最近ちょっと素敵な店ができたりしたことをヒントに、自分なりにいろいろ遡っていっただけ。
ものすごく小さなところから深掘りしていくことで、「東京で暮らすことに求められる要素であるとか、住む場所を選ぶときのルールが変わりつつあるのでは」と、わりと大きなところに足を引っかけていく、みたいな。
中川:興味深いです。
速水:著書の『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)も、ラーメン屋の行列とか、店内にポエムが飾ってあるなんて話題から、戦後のラーメン文化の動向を整理して一種の戦後史として論考してみたり。「ちっちゃなところから大きいところに視点を広げていく」というのが、僕の手法なんです。だから、日常生活のなかで出会うちょっとした変化はつねに探そうと意識しています。