「日本が生き残る道は金融の強化以外にない」−−東京証券取引所グループ社長 斉藤 惇

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--国際競争力のある市場にするために、東証は今何が必要ですか。

世界の取引所は今、「投資家の売買注文にどれだけ速く対応できるか」の勝負をしています。1件の注文に対する応答速度が6ミリ秒程度の英ロンドン証券取引所(LSE)をはじめ海外競合に対し、東証の現行システムは見劣りする。2009年に稼働する次世代システムは、スピードを上げてこれに対応します。

--なぜスピードが重要?

現代の機関投資家は、マーケットのいろいろな動きに対して、コンピュータプログラムで自動的に注文を出すアルゴリズム取引を増やしている。わずかな値動きにも、素早く大量に売買して利ザヤを稼ぐためです。アルゴリズム取引は、人間ではなくコンピュータが売買注文を出すから、取引所がそれに対応できるシステムを持っていないと。

この流れは1970年代から始まった。それを受けて海外の機関投資家の間で、売買注文を取り次ぐブローカーの不要論が唱えられた。それでブローカーである証券会社は、いかにこれに対応するシステムを構築し、機関投資家に接続してもらうかということを戦略の重点に変えた。その流れが続いている。

この流れに対して、米国は取引所の対応が遅かった。東証も同じですが、市場集中制度があったからです。しかしそれが撤廃され、手数料も順次自由化された。取引所も危機感を持って動きましたが、NYSEは場立ちのトレーダーがいまだに残っているように、なかなか流れについていけず、ECN(電子証券取引ネットワーク)のような市場外取引が活発化したという経緯があります。

一方、日本はなかなかこれに気づかず、世界から圧倒的に遅れた。東証がシステムの処理速度を上げたとしても、外国人投資家の売買は増えても、日本の機関投資家からはそれほど反応がないかもしれない。

--日本は主客が逆転している?

取引所がなぜアルゴリズム取引に対処する必要があるかというと、運用者であるバイサイド(機関投資家)が、開発競争を加速しているからです。欧米ではその要望が、ブローカー(証券会社)を通じて取引所に来る。取引所はあくまで従です。日本もそうあるべきだけど、そうなっていない。今、世界はものすごい勢いで進んでいる。合併した英ロイターとカナダ・トムソンは、彼らが配信する情報に応じて自動売買ができるようなシステムを開発し、バイサイドに売り込もうとしている。メディアも巻き込み、流れは加速している。

--今年4月にスタートした中期経営計画では、将来的にアジア最大級のデリバティブ(金融派生商品)取引所を目指すと掲げました。しかし、日本社会は外資も嫌いですがデリバティブにも拒絶反応が強い。

今や石油も鉄鉱石もトウモロコシも、何でも派生取引。世界はミリ秒単位で情報が全部つながって、バーチャルな取引所みたいになっている。どうしてもやらざるをえない。

海外の取引所を見渡すと、ドイツ証券取引所の時価総額は、LSEやNYSEをしのぐ。なぜそうなったかというと、デリバティブで発展したからです。もともとこうした指数取引を開発したのは日本人です。江戸時代の大坂のコメ相場。江戸時代の日本人は、世界有数の派生業者だった。それが100年以上経って、現物依存に戻っている。批判はあると思いますが、理解してもらうしかありません。
(山崎豪敏週刊東洋経済編集長、武政秀明 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

さいとう・あつし
1939年生まれ。63年慶大商学部卒業、野村証券(現野村ホールディングス)入社。株式、債券など多様な金融商品の販売や本社企画、財務などほとんどの業務を担当。88年常務、90年専務、95年副社長。2003年産業再生機構社長。07年6月東京証券取引所社長、同8月から現職。

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