地方創生が「成功例の横展開」でコケる理由 その場所の最適解は、その場所にしかない

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サマースクールはさまざまなプログラムで構成されています。海外大生による少人数セミナーや、世界の第一線で活躍する方の講演。そして「フリーインタラクション」と呼ばれる車座の談義では、地元の人を囲んでディスカッション。地元の漁師さんを講師に招き、牟岐町の伝統である大漁旗を製作するワークショップも催されました。

サマースクール中には、食事作りなどに現地の婦人会メンバーが携わりました。はじめは手探りだった女性たちも、若者と過ごし、食事を喜んでもらったことで、新しいことに挑戦する意欲が高まり、ホームステイを受け入れたり、英語を習ったりしはじめています。

「変化の波」は各世代に伝播しました。「HLAB」にスタッフとして参加した大学生の中から、教育支援NPO「ひとつむぎ」が誕生。その「ひとつむぎ」が牟岐町の地元中学生に向けたプログラムを実施した結果、中学生が主体となり「むぎいろフェスティバル」というイベントが企画されました。地元のつながりを生かした食品販売、食事提供、イベント展示に、4000人しかいない町の500人が集まったのです。

「牟岐町民である」ことのロイヤリティが高まった

「むぎいろフェスティバル」の食品販売ブースの様子

牟岐町の教育委員会の久米寧次長は、「HLAB」からの一連の盛り上がりの中で「身の丈に合った地方創生」の重要性を痛感したそうです。

「企業誘致による雇用拡大等、全国横並びの施策を、人口減少問題を解決するための糸口ととらえることには疑問を持っていましたし、そもそもそれが目標でいいのかとも感じていました。そうであれば、この地域に必要とされる形で、独自に町を盛り上げるしかない。牟岐町は、外部からきた『HLAB』との出会いが道しるべとなり、その後最高の化学反応につながった。そして若者が変われば、大人も変われるんです」(久米次長)

第2回目となった昨年の「むぎいろフェスティバル」では、婦人会の会長・石本さんをはじめ、運営を支えた女性が英語で食事メニューを紹介するなど、いっそうの進化を遂げています。

石本さんは、「若い人に元気をもらいながら、一緒に作り上げることを楽しみにしています」と笑顔で答えます。また、「むぎいろフェスティバル」が開催されたことで、それまではあいさつ程度の付き合いだった町民どうしが、お互いを知り、町を知り、「牟岐町民である」ことのロイヤリティが高まったようです。

彼・彼女たちは「地方創生」を理屈で捉えるのではなく、若い世代が少なくなった町にやってきた「新しい若い力」を自然体で受けいれたにすぎないのです。この柔軟な牟岐町の女性の生き方が、この町の「全員参加型の地方創生」の根底にあると感じました。

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