フロリダ惨劇から学ぶ「テロ時代の暮らし方」 疑心暗鬼に包まれた世界をどう生き延びるか

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しかし、そこまでしても夜中の2時にオーランドのお気に入りのクラブに行き着いてしまう可能性もあるのだ。この時間に、この町で、こんなものが銃撃犯の目標として選ばれるとは、決して思いもせずに。

私はエルサレムの街をランニングしていた当時、有事に叫ぶために「記者だ!」という意味の現地語を、何度も自分に覚え込ませようとした。だが、実際に襲われはしないだろうと思う一方で、こんな言葉を叫んでも無駄だと分かってもいた。「記者だ!」と言ったところで自爆犯には何の関係もないのだ。米国人記者にとっては「カナダ人だ!」の方が有効かもしれない。

この時代に最悪なことは、見知らぬ人が常に疑わしく見える点だ。いまどきの旅行者には疑念の霧がついて回る。あのとても綺麗な女性はバッグに爆発物を忍ばせているんじゃないか? あの学生風の男はなぜ、荷物をあんな風に背負っているのか? あそこの笑っている男は今、ゴミ箱に何を入れたんだろう? 寒くもないのになんでダウンジャケットを着ているんだ?

私たちはもはや一人ではない。楽しい時間を過ごすことはできず、普段通り仕事をこなせず、自分の生活は送れず、心ここにあらずといった状態になる。死が私たちの後を付け回している。私たちは用心して過ごさなねばならない。

疑心暗鬼と笑い飛ばせない

これは私が数年前にイスラエルに住んでいたときの暮らしぶりだ。米国へ戻り、自分で身の安全の確保を試みずに済むことが大きな安らぎになっていた頃の話だ。

しかし、悪党どもの潜伏先が広がり、雇い主に代わって仕事をこなすフリーランサーが増えた今、攻撃を行う実行犯 (複数人の場合もある) はどこにでも姿を現すことができる、そんなふうに思える。カリフォルニア州サンバーナーディーノや、フロリダ州オーランドといった町にさえ。

そう、オーランドだ。私たちは日々の生活を送り続ける。しかし、その一方で扉に目をやり、銃や爆弾を持った人間がいないか、常に探り続ける。

最悪なのは、こうした習慣がまったくバカげたくだらない愚行なのか、もはや私たちには想像もつかない点だ。

著者のエイミー・ウィレンツ氏は米「ザ・ニューヨーカー」誌の特派員としてエルサレムに赴任していた。現在はカリフォルニア大学アーバイン校のジャーナリズム学科で講義を行っている。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。

 

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