「ウチの店長は早く帰っちゃうから、やってられないよ」なんて態度の社員はいないとしても、それでも自分のせいで、スタッフの仕事量を増やしているという罪悪感はある。だから、増沢さんは、スタッフの負担が増えることの”メリット”を示すよう、工夫を重ねたと言う。
「社員は皆、店長になりたいという希望を持っている。だから、皆が早い段階で店長の業務を代行することは、キャリアアップにつながるはずだし、実際、私は皆のキャリアアップを全力でサポートすると、面談や朝礼などで繰り返し話しました」
また、店舗に長時間いられないからこそ、スタッフとは緊密なコミュニケーションを取るようにした。
「金銭管理や商品管理などチェック系の仕事はバッと終わらせ、スタッフへのフィードバックをメインの仕事にした。これが手薄になると、後始末の仕事が増える。だから、それを少なくするために、“前始末”、つまりは、事前のすり合わせを徹底することにしたのです」
戦略拠点の店長を次々と担当するが…
そのかいあって、増沢さん自身も、着実に成果を上げ、キャリアアップを実現していった。10年には、社内ランクが「S-4グレード」に昇進。「東京ミッドタウン店」を立ち上げる際には、店長に抜擢された。
「新店であるうえに、本社のお膝元。しかも、ニューヨークやパリに出店する際のひな形を作るというミッションまであった。そのため、他の店舗とはまったく違う什器を使い、従来とはまったく違うレイアウトを本社のスタッフとコミュニケーションしながら作り上げていく必要があった。プレッシャーはすさまじかったですね」
結果として、店の売り上げは予想以上になった。その成果が評価され、半年後には、スタッフが90人以上の巨大店舗、イオンレイクタウンmori店の店長に抜擢された。
だが、ここで、仕事と育児の両立に自信がついていた増沢さんが初めて「店長を辞めたい」とまで思い詰める出来事に遭遇する。
「私がいない時間に、何度か連続して、身内で事件が起きたのです。水面下でスタッフの間に何が起きているのか考え、悩みました。やはり、私が早く帰るのが問題なのか、とも。
でも、私一人が悩んでいても仕方がない。スタッフ全員が問題を共有しないことには、事件は収まらないと、緊急ミーティングを開いて、スタッフに『社会人とは何か?』から説き伏せ、一人ひとりに危機感を持ってもらうようにしました」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら