iPhoneが「空き容量対策」に熱を入れるワケ 最安値の16GBモデルの価値がグンと上昇

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グーグルは、前述のGoogle I/O 2016で、インストールなしでアプリの機能を利用できる「Instant Apps」を発表し、アプリをインストールしてもらいにくい新興国への対策を実施している。

これらに比較すると、アップルの「アプリ体験の分断」は、対策として弱い。機能を呼び出すためには、アプリをインストールしておく必要があるからだ。しかしそれでも、App Storeではなく、コミュニケーションというきっかけからアプリを利用できるようにした点で、これまでよりもアプリのインストールのハードルを下げることになる。

アップルがこうしたアプリインストールの対策を行う背景には、新興国で最も安いiPhoneの販売を加速させたいという狙いがある。

現在、アップルが販売する最も安いiPhoneは、「iPhone SE 16GBモデル」。米国の価格では399ドルと、既存の最新機種である「iPhone 6s」と比較すると250ドル安い。それでも、100ドル前後で推移する新興国のスマートフォン価格に対して、iPhoneは4倍近くの値段になってしまう。

4倍も値が張るiPhoneで、たいした体験を提供できなければ、販売を伸ばしていくことができない。メッセージや地図といった日常に欠かせないツール、あるいはiPhoneの目玉機能のひとつであるSiriで最高の体験を作り出す手助けを、開発者にしてもらえるようにする対策だ。

なぜ標準アプリを削除できるようにしたのか

ただし、ストレージの記憶容量が16GBしかないiPhoneには、たくさんのアプリをインストールすることはできない。そのため、1カテゴリにつき1アプリの勝者を地域ごとに作り出しながら、最も安いiPhoneでも、十分満足できる体験を作り出す「枠組み」を準備している。

今回のOSからカレンダーや天気などの標準アプリを削除できるようになった。これも、「16GBモデルの空き容量対策」と考えられる。

現在のアップルは、iPhoneの成長が企業の成長と同義になっている。そのため、中国やインドなど、人口が多い市場での成功を確保していくことが重要だ。

iOS 10では、標準アプリを核とした体験を強化することで、ほかのプラットホームに触れない、つまりiPhoneの空き容量を食わない形で、日々の体験を実現する仕組みを作り出そうとしている。加えて、中国のタクシー配車アプリでUberのライバルである「Didi Chuxing(滴滴出行)」へ10億ドルの投資を行ったり、インドのバンガロールにアプリデザインと開発支援の拠点を開設している。

iOS 10は、多くのユーザーに対して先進的な機能を提供するとともに、アプリ切り替えなしにiPhoneでの体験をより自然に楽しむことができるようになる。その背後で、新興国対策にも万全を期しており、秋以降、その効果が現れるかどうか、注目していくべきだ。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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