あの弁護士ドラマはどこまで「リアル」なのか 「現実にはありえない場面」を成立させる秘策

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さらに「現実の法律実務とは異なるけれど、表現の意図を汲んであえてそうしている、ということがわかるセリフがさりげなく、随所に挟み込まれている。細かい作法にも配慮が見られ、現実とのギャップも法律家として許容できる範囲内に収められている」(山脇弁護士)という。

実際の法廷は「書面主義」だ。だから書面の内容を法廷で縷々読み上げることはないが、ドラマではそうもいかないので、「書面にある通り」というセリフを挟んで読み上げたり、また裁判長の事前の許可なしに証人にいきなり証言させる場面でも、実際にはあり得ないが「異例ではありますが」という一言を挟んだりしている。

サブタイトル通り刑事専門の弁護士が主人公である『99.9』に対し、『グッドパートナー』は、企業法務を扱うビジネスロイヤーを主人公に据えている。これまでの弁護士ドラマは基本的に刑事弁護、あるいは離婚など一部の一般民事弁護を扱ったものが大半で、ここまでビジネスロイヤーにスポットを当てたドラマは、おそらく初だ。

法廷シーンがほとんど登場しない「異色ドラマ」の背景

さまざまな点で、これまでの弁護士ドラマとは一線を画す『グッドパートナー』

舞台は少数精鋭で企業法務を専門に扱う、いわゆるブティック事務所の神宮寺法律事務所。所長弁護士の下に3人いるパートナー弁護士のうち、咲坂健人(竹野内豊)と夏目佳恵(松雪泰子)は元夫婦。ともにこの事務所のエースは自分だと思っている。

このほかに3人のアソシエイト弁護士、パラリーガル2人(うち1人は司法試験に10回落ち続けて弁護士を断念)、秘書1人という陣容である。収益目標を課されるパートナー弁護士、屈折したパラリーガルと若手弁護士の微妙な関係などがリアルに描かれている。

こちらも『99.9』同様、ほぼ1話完結で、全9話中7~8話だけが連続もの。著作権侵害、雇用問題、反社会的勢力との取引解消問題、事業再生、企業におけるセクハラ問題、温泉旅館の爆発事故の責任の所在など、企業法務の領域を幅広く扱っている。

従来の弁護士ドラマと最も異なるのは、法廷のシーンがほとんど登場しない点だろう。

このドラマのアドバイザーで、脚本のチェックや場面設定のアドバイスをしている東京丸の内法律事務所の鈴木知幸弁護士は、自身がまさにビジネスロイヤーだ。「裁判になれば時間も手間暇も費用もかかる。契約書の作成段階から関与して、トラブルが生じても裁判に持ち込まない解決方法を模索するのが、ビジネスロイヤーの重要な役割の一つ。法廷闘争に持ち込まないから法廷のシーンもない、という点で、このドラマは一般にはイメージされにくいこのジャンルの弁護士が、どのように活躍しているのかを描いてくれている」と話す。

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