無理を押しつけ合う「夫・妻・中間管理職」 「もっと頑張る」よりも「手放す勇気」を持て

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当然、部署単位ではできない。全社の方針として、一時的な業績の悪化を受け入れる覚悟が必要になるだろう。それをせずに現場の中間管理職にだけ「成果は落とさず、育児中の社員でも働きやすい環境を整えろ」と求めるのは卑怯だ。

妻はいっぱいいっぱい、夫は板挟みでパニック状態、中間管理職もジレンマにある。しわ寄せを、弱者同士で押しつけ合っている。悲しい地獄絵図だ。

「頑張る」よりも、「手放す」勇気

拙著『ルポ 父親たちの葛藤 仕事と家庭の両立は夢なのか』の編集担当も、仕事と家庭の両立に悩む男性である。根本的な問題は激務だ。しかし会社は急に変えられない。社会も急に変えられない。

よくあることだが、「打ち合わせ」はいつの間にか「相談」になった。私は彼に言った。「何も捨てないからジレンマに陥るんですよ。子育てを始めるならこれまでどおりの仕事の成果なんて無理。結局何を選択するかということなんですよ」。

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「仕事と家庭の両立」とは言うけれど、必要なのはマルチタスクのスキルではない。少ない業務時間の中で今までどおりの成果を出し続けることでもない。大切なのは、もっと「頑張る」ことではなく、何かを「手放す」勇気なのだ。要するに、自分は何をして、何をしないのかを選択することに尽きる。

はっきり言おう。これまで「男性の家庭進出」がなかなか前に進まなかったのは、「イクメンやイクボス推進運動」や「ワーク・ライフ・バランス啓蒙活動」そのものが、その表面的なメッセージとは裏腹に、実は昭和的マッチョイズムを根底で引きずっており、当事者の内面的変革を阻害していたからだ。

「何を守って何を捨てるのか」という議論を、個人のレベルだけでなく社会のレベルでも本格的に開始すべき時期に来ているのではないだろうか。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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