iPhoneの進化、立ち止まってはいなかった アップルが披露した「OS戦略」の全貌

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事前に大きく注目されていた音声アシスタントSiriの発展は、予想よりは控えめな、しかし開発者にとって待望の進化を遂げた。

これまで、アップルのアプリや同社が用意したコンテンツ以外を利用できなかったSiriだが、iOS 10からはサードパーティーの開発者がSiriを介して音声機能を利用することができるようになる。たとえば、LINEやWeChatなどのメッセージアプリで誰かにメッセージを送ることもできるし、Uberなどのタクシーアプリで配車予約が可能になるのだ。

また、macOSにもSiriが登場し、MacからSiriを利用できるようになった。特に、ウェブ検索やファイル検索を利用することができ、その結果を通知センターにクリップしてあとから利用することができる仕組みとなった。

アップルも機械学習に取り組んでいるが、他社と違い、ユーザー間のデータを共有しないというポリシーの下での活用を行っている。そのため、他のユーザーの学習結果によって、自分のiPhone内の機械学習結果が向上することはない。

しかし、どんなアプリをいつ使っているか、誰とどんな手段でコミュニケーションを取っているか、といったiPhoneの上での活動をつぶさに学習し、ユーザーが日々の暮らしで必要かつ便利に感じるインテリジェンスを上げるようにしている。

iOS 9では、居る場所やイヤホンジャックへの差し込みなどに応じて、オーディオ系アプリを提案する機能を搭載したが、そうしたさりげない学習結果が、Siriの結果やニュース、音楽の選択などに生かされるようになっていくだろう。

純正アプリでの体験を「いかに心地よくするか」

今回の発表を受けて、アップルのiOSは、体験の洗練で一歩先を行く存在になった、と評価することができる。

確かにGoogleが進めるAndroidのほうが汎用的な先進性を備えているが、一般的なユーザーからすると、iPhoneのほうが心地よく感じられるのではないだろうか。

また、今回発表のiOS 10で、Siriやマップ、メッセージに対して、開発者がアプリの機能を提供することができるようになった。アップルが用意する純正アプリの上で、さまざまなアプリの機能を呼び出せる仕組みを取り入れたことで、ユーザーは、頻繁なアプリ切り替えなしに、目的を果たすことができるようになる。

そうしたiPhoneでの体験を、Apple Watch、Apple TV、そしてMacにも押し広げていくのが、現在のアップルのソフトウエア的な発展の流儀と言える。今後、より広範なデバイス間の連携を強化していくことで、同じ人に複数のアップルデバイスを使ってもらう、「総合的なライフスタイル変革」を狙って行く。

もちろんそのためには、より魅力的なハードウエアの登場にも期待が集まる。これらは、各OSの正式版がリリースされるとアナウンスされた2016年秋を待つ必要がある。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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