トランプ対ヒラリー、「嘘つき」のたたき合い どちらが手のつけられない大嘘つきか?

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この汚職疑惑は、隠蔽工作が告発されたことでさらに深刻化した。今日の私たちが知るように、こうした隠蔽の方が大ヤケドを招く可能性が高い。

ブレインはこのときの調査を切り抜けた。だが民主党は、1884年の大統領選でこの疑惑を蒸し返した。このときまでに、新たな有罪の証拠となる通信が明るみに出ていた。ブレインは汚職が事実であることを認めざるを得なかったが、だからといって自分が嘘をついたという証拠にはならないと主張した。だが民主党は、こんなシュプレヒコールをあげるようになった。「ブレイン! ブレイン! ジェームス・G・ブレイン! メーン州出身の、全米一の大嘘つき!」 もっと短い「読後焼却! 読後焼却!」というバージョンもあった。

このときが、嘘に対する告発が大統領選において最も中心的な争点になった例である。ブレインにとってこれがまったく有利に働かなかったことは確かだ。とはいえ、クリーブランドの勝因は、恐らく、ブレインの嘘について何が証明されたかという点ではなく、共和党が3派に分裂していたこと、そしてブレインの応援演説を行った支持者が、民主党を「ラム酒とカトリック、反逆者」の集まりであると称し、激戦州のアイルランド系有権者を中傷したことだろう。

なかなか有権者の関心リストの最上位にはならない

言い換えれば、選挙戦において嘘がどれだけ話題になろうとも、「嘘つきかどうか」を有権者の関心リストの最上位に持ってくることは容易ではない、ということだ。

2016年の大統領選においても同じことが言えるかもしれない。クリントン氏に対する告発は、またしても先に進まない可能性がある。またトランプ氏に対する批判も、彼の主張を後押ししている人々の憤りのなかに埋もれてしまうかもしれない。

クリントン氏を批判する者は、約30年もさかのぼって、批判すべき理由を執拗(しつよう)に繰り返す。秘密主義的な医療政策担当チーム、ローズ法律事務所での経歴、夫の度重なる性的スキャンダルに関するもみ消し工作などである。国務長官の職を離れてからは、その高額な講演謝礼が批判されている。新たな金融規制への関与がどれほど強いとは言っても、講演のなかでウォール街の大富豪たちの機嫌を取りすぎだという批判もある。

私用メールサーバー問題に関する調査が進展するなかで、クリントン批判派は「最後の一撃がようやく実現する」と言い続けている(彼らはもう何年もこれについて語っている)。彼女自身の振る舞いからも、また状況からも、「疑わしきは罰せず」は通用しない、と彼らは主張している。

トランプ氏の問題はこれとはまったく異なっている。彼の演説には嘘がちりばめられている。幹線道路で起きた前代未聞の交通事故の後であたり一面にガラスの破片が散乱しているような具合だ。だが、報道機関があれだけ事実との乖離(かいり)を指摘しても、世論の支持はいっこうに衰えない。

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