アトキンソン氏「スポーツ産業の課題」を語る 日本のスポーツは観光並みに伸び代だらけだ

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たしかに、これらも「スポーツ観光」が期待できる要素のひとつではあるのですが、私がそう考える理由は別にあります。それは一言で言ってしまうと、「日本のスポーツ産業というものが、観光業と同様、ものすごく大きな成長の余地がある」からです。

アンダーアーマーの日本総代理店として知られるドームの安田秀一代表取締役CEOとかねてから知り合いということもあり、これまで日本のスポーツ産業が抱える問題点などをうかがってきました。そこで気づいたのは、日本の観光業が抱える問題と非常によく似ているということでした。

これまで著書などで繰り返し述べてきましたが、日本は「観光大国」の4条件と言われる「自然、気候、文化、食」という豊富な観光資源に恵まれています。ここまで条件が揃っている国というのは、世界を見渡しても多くはありません。

そのような潜在能力があるにもかかわらず、GDPに占める観光業の割合は世界平均を大きく下回り、観光業の規模があまりにも小さいということを指摘してきました。ただ、これは裏を返せば、大きな「伸び代」があるということなので、やるべきことをやれば「成長産業」になるということでもあるのです。

これはスポーツもまったく同じです。現在、アメリカのスポーツ産業は60兆円の規模に達しています。一方、日本はどうかといえば約5兆円。約12倍の開きがあるのです。

GDPを比較すると、アメリカは日本の約4倍、人口でいえば3倍です。つまり、単純に考えて日本のスポーツ産業も20兆円規模になっていなければいけないはずなのです。その潜在能力の4分の1しかないというのは、少なすぎると言わざるをえません。

なぜ米国のスポーツ産業は「3倍」成長したのか

そう言うと、「アメリカのスポーツビジネスは日本とレベルが違う」とか「スポーツに対する国民の関心が違う」などさまざまなご意見を頂戴するかもしれませんが、客観的にみれば日本ほど「スポーツの多様性」に富んでいる国はありません。

相撲や柔道といった日本古来の競技も人気を保ち続けている一方で、世界中のほとんどのスポーツが入ってきています。野球もやれば、サッカーもやる。あまり聞いたことのないマイナーなスポーツも、それなりに競技人口がいます。この多様性を考えれば、本来ならば日本は「スポーツ産業大国」になっていてもおかしくないのです。

さらに言えば、20年前まではアメリカでも、スポーツはわずか18兆円ほどの産業でした。同時期の日本は約6兆円。つまり、先ほど述べた「3倍」の関係が成り立っていました。

それが大きく姿を変えたのは2010年。アメリカのスポーツ産業が、一気に約3倍の50兆円に膨れあがったのです。かたや日本は、GDPも人口もそれほど変わっていないのに、産業規模が1兆円も減ってしまいました。これは国民性云々などでは到底説明がつきません。

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