FRBのインフレ目標政策の考え方 新たなコミュニケーション政策を導入(Fedウォッチャー)

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これを日本と比較してみよう。日銀は「中長期的な物価安定の目途」を「2%以下のプラス圏」とした上で、「当面は1%を目途」としている。「バブル期でもインフレ率は平均1.3%」(白川総裁)という日本の経験に照らし合わせると、インフレ率が1%に近づくほど緩和解除予想が膨らんでしまうだろう。これではリフレーションとは程遠く、当面の目途としている1%のインフレ率ですら達成が危ぶまれる。

つまり、日本のインフレ目標政策が抱える1つの問題は、目標に達するまでのインフレのパスが低く抑えられてしまっていることにある。もし、日銀が日本にとって適切な長期インフレ目標が1%と考えているなら、それが安定的に達成できるための“のりしろ”として、2%という数字を設けるべきだった。長期と当面の数字が逆なのである。

このように、一時的なインフレの上ぶれを許容するかどうかがFOMCと日銀のインフレ目標政策の決定的な違いと言えるのだが、FOMCはインフレに寛容なわけではない。今回の閾値参照アプローチの原型であるエバンス・プランと比べてみると、それが良くわかる。

11月27日にエバンス・シカゴ連銀総裁が提案した閾値参照アプローチ(エバンス・プラン)では、インフレの閾値はFOMCと同じ2.5%とされていた。しかしその対象は「1~2年先」ではなく「2~3年先のインフレ見通し」だった。議事録が出れば明らかになるが、筆者の予想では、「2~3年先のインフレ見通し」では長期インフレ目標との違いが曖昧になりかねないという問題があることや、インフレが加速する兆しを決して見過ごせないことを理由に、FOMCは「1~2年先」というアイデアを採用したのではないだろうか。

 与えられた使命とリスクの狭間で

2つの宿題をやり終えたと言っても、FOMCはもう何もしなくて良いという訳ではない。バーナンキ議長は、量的緩和策については未だにその効果やデメリットについて解明されていない部分があり、まだまだ学習過程にあるという。金利ガイダンスは閾値を使った定量的なアプローチとしたが、量的緩和策のガイダンスは「労働市場の十分な回復が見られるまで」という定性的なものとしているのも、量的緩和策に関する知識が不足しているためだ。

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