「猛獣トランブ」は、共和党自身の産物だ あとは食い尽くされぬよう願うばかり

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実際にトランプ氏は、12年の大統領選には名乗りを上げなかった。それは共和党が有力候補への意見集約を果たせなかったからである。しかし、共和党指導者たちがオバマ氏の再選を許したことで、ポピュリストの共和党支持者の党に対する怒りは強まった。16年の大統領選に向け、多くの人が求心力のある「反体制」候補を探し出したのだ。

この有権者の反乱に便乗し、15年夏以降、トランプ氏は過激な発言を繰り返し、移民排斥、イスラム嫌悪、共和党エリートへの怒りといった有権者の感情に訴えていった。

トランプ氏の中核的な支持者層は、行き場を失って経済不安を抱えるブルーカラー労働者だといわれている。しかし、これは間違いだ。実際にはトランプ支持者の平均年収は約7万2000ドルで、米国全体の平均値5万6000ドルを上回る。

トランプ氏の支持者はティーパーティの支持者と重なり、圧倒的な割合で高齢、男性、中間層、白人なのである。彼らは経済についての不安を口にする点で、多くの共和党支持者と同様だ。しかし特徴的なのは、オバマ大統領の合法性についての懐疑や移民への怒り、米国衰退に対する憤りを感じている点である。

共和党の主張はずっと前から劣化

トランプ氏の支持層の広がりは、決して驚くことではない。長年にわたり共和党のエリートたちは高齢の白人有権者の支持を得るため、移民排斥や人種差別的な恐怖心をあおってきたからだ。トランプ氏が台頭するはるか以前に、共和党の主張は劣化していたといえる。

共和党エリートは有権者の感情に逆らうのを避け、トランプ支持を表明し始めている。米国のようにぎりぎりの均衡で成り立つ2党体制においては、テロ攻撃など一つの危機で情勢が変動しかねない。共和党は自らが生み出した猛獣に乗った。もはや猛獣が共和党そのものを食い尽くさないよう願うばかりだ。

週刊東洋経済6月18日号

シーダ・スコチポル 米ハーバード大学教授

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シーダ・スコチポル / Theda Skocpol

1947年米ミシガン州生まれ。社会学者、政治学者。米国歴史社会科学会や米国政治学会の会長を歴任

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