観光列車SLの再ブームに落とし穴はないのか 首都圏で蒸気機関車が走る路線は増えたが…

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西武秩父駅に乗り入れ、西武鉄道の特急レッドアローと並んだ秩父鉄道のSL列車「パレオエクスプレス」(筆者撮影)

また、5月末には秩父鉄道のSL列車「パレオエクスプレス」が初めて西武秩父駅に乗り入れるイベントが行われた。このイベントでは、SLと西武の特急「レッドアロー」が同じホームに停車。

セレモニーで秩父市長は「レッドアローからSLに直接乗り換えられることで、東京から一番近い(SLの)駅になる」と述べた。今回の乗り入れはイベントとして行われたが、入線を可能にするための信号システムなどは新たに設置しており、今後も実施は可能だ。

東武鬼怒川線でのSL運転や、東京から近いことをPRした首都圏の鉄道でのSL運転活発化は、大井川鐵道から見ればライバルの増加にもなりうる。だが、山本さんは他の路線でもSL運転が活発化することについて「そういう(ライバル的な)面もないわけではない」としつつも、願いは蒸気機関車の保存運転という文化自体の盛り上がりだと語る。新たな客車の導入も、特に競合などを意識してはいないという。

山本さんは「今の鉄道の主役といえば新幹線などで、そもそもSL自体を知らない人も多い。競合というよりも、いろいろな所で運転されることによって、SL列車の認知度が高まり、盛り上がれば嬉しい」と語る。

大切なのは「SLの文化継承」だ

実は、東武のSL運転にあたっては、機関車を貸し出すJR北海道のほか、大井川鐵道や秩父鉄道、真岡鐵道が乗務員や研修員の養成に協力している。蒸気機関車という「文化遺産」と、それを守る技術を受け継ぐという点でも、SL運転の活発化は意味があり「技術は我々だけでなく、鉄道の文化を継承するために広く受け継がれなくてはいけない」と山本さんはいう。

最近は、鉄道に限らず建築物や産業遺構など、近代遺産を巡る旅が新たな旅行のジャンルとして脚光を浴びている。蒸気機関車は鉄道の歴史を支え、日本の産業を支えてきた重要な文化遺産だ。

だが、現在運転されている蒸気機関車は基本的に昭和初期などに製造された車両で、運転や整備には独特のノウハウと高い技術が求められる。これからも貴重な遺産を維持するためにこれらの技術を継承することが、今後も長い間運行を維持していくためには欠かせない。サービス面などで各社が切磋琢磨するとともに、「SLの文化」が受け継がれていくか否かが、SL列車人気継続のカギを握っている。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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