グリコが化粧品参入で狙う脱"アイス偏重" コアの糖質技術生かす

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そして、化粧品参入のもう一つの意味は、収益源の多軸化と安定化である。

江崎グリコは菓子、食品、乳製品、畜産品などさまざまな分野を手掛けているが、実は稼ぎ頭となるのが利益率の高いアイスクリームだ。本業の儲けを示す営業利益は、アイスクリームの繁忙期である夏が含まれる上期に偏重する傾向が強い。猛暑になると利益が大きく出る一方、冷夏でアイスクリームの売れ行きが鈍ると利益が大幅に悪化する。加えて、本業の菓子や加工食品は、国内はデフレのあおりで低価格競争にさらされている。

対して化粧品は気候要因に左右されにくく、しかも安売りされることが少ない。アイス偏重で不安定な収益構造を緩和するとともに、菓子や加工食品に続く収益源の確保という意味でも化粧品のような商材を育成する必要があるのだ。「(化粧品は)年間を通して、継続的に購入してもらえる“愛用品”に育てたい」とマーケティング本部・マーケティング部の藤田裕輝マネージャーは言う。

攻め込むには難しい市場

ただ、「gg」の売上高目標は、5年後に単年度10億円と控えめ。攻め込むには決して容易な市場ではないからだ。そもそもチャネルを通販に絞ったのには理由がある。化粧品は食品と違い、顧客が購入する前に使用法などに関して問い合わせることが多い。使用期間も約2カ月と長く、その間の顧客へのサポートも必要となるため、「(量販店などは避け、)自分たちの目の届く範囲で販売することにこだわった」(稲葉氏)。

実際の理由はそれだけでもないだろう。特に「gg」のような高価格化粧品の主戦場である百貨店は、資生堂やロレアルなどの老舗メーカーが売り場をがっちり押さえている。実績のない新興メーカーが入り込む余地はない。テレビCMなど大々的な広告宣伝を行わない以上、カウンセリングがより手薄な量販店への導入も難しい。

異業種からの化粧品参入では、富士フイルムが投入した「アスタリフト」が、発売からわずか4年で100億円を売り上げるブランドに成長している。グリコも同じように成功をはたせるか。社名にも冠したコア技術の応用先を化粧品に求めた菓子大手の挑戦が始まっている。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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