13年末1ドル85~86円、国債増発は回避も 安倍政権下で為替、債券はどうなる

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13年度予算における国債増発については、自民党が選挙公約で掲げた生活保護費の見直し、公務員給与削減をどこまで実現できるかにかかってくる。

公約どおり進めば、この2つで最大3兆円が捻出される可能性がある。これが可能であれば、この分を13年度の公共投資上積み分として加算できる。そうなると国債を増発しなくても相殺できる。

13年度の上積みが3兆円程度でも、今年度補正と合わせれば、公共事業は8兆~10兆円と、公明党の主張する年間あたりの財政出動平均額である10兆円と近くなる。新政権の財政出動は、最終的にはこの程度の現実的なものになるのではないか。

長期金利は0.6%台底に1%を目指す展開も

(野村證券 金融市場本部 チーフストラテジスト 松沢中氏)

為替や株式相場は日銀の金融緩和期待などを織り込んで、先行するかたちで上昇している。長期金利の動きを考えるポイントはいくつかの段階に分かれるだろう。第1段階は来年1月にも決まる新政権下での補正予算による国債増発だ。

これが織り込まれると10年債の金利は0.8%台に戻すことになるだろう。その後しばらく相場は横ばい圏での動きになる。ただし安定政権誕生と成長重視の政策運営により、長期金利が0.7%を割り込む可能性は低下した。

第2段階は来年4月頃で、自民党が公約に掲げている「官民協調外債ファンド」がどのような形になるかだ。ファンドへ年金基金やゆうちょ銀行などの有力な国債の買い手資金が流れるようだと、海外投資家にはネガティブな印象を与える。

一方、日銀がインフレ目標を導入して無期限の金融緩和に動く可能性もあるが、目標を信じてダイレクトに長期金利が上昇する動きにはつながらないとみている。

日銀は期待に働きかける間接的な政策で、それをきっかけに個人資金がリスク資産や海外資産へ動く必要があるが、直接的に資金フローを変える影響が大きいのは、政府の政策だ。

もし円安基調をうけて個人が預金を海外投資に振り向けはじめると、銀行サイドは預金を原資にした国債の買い余力が落ちる。こうした要因から長期金利は0.9%~1%のレンジも視野に入るだろう。

現在の1ドル約84円という水準は、景気回復が見込まれた今年4月の水準と同じだ。2006年、07年には個人の金融資産が15兆円ほど海外に動いており、同様の動きとなれば、為替は1ドル90円台を目指す動きも考えられる。

最後の第3段階になると不確定要素が多くなるが、海外投資家がどれだけ投機に動くかだ。ポイントになる時期は、政府が消費税導入の是非を決める13年秋。仮に先送りとなれば影響は大きく、財政悪化懸念から日本の投資家も手を引く動きが強まるだろう。また、直近では海外投資家が日本の10年債を積極的に買い入れており、海外勢の売りが加速する可能性もある。 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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