ペプチドリーム、創薬ベンチャーの「爆発力」 株価がストップ高!営業利益率5割の実力は?

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ペプチドリームを引っ張る窪田規一社長。SRLなどを経て、2006年に設立した(記者撮影)

創薬ベンチャー、ペプチドリームの株価が急騰している。東京証券取引所では、5月20日の安値5640円から、6月3日には一時ストップ高となる、7330円の高値を付けた。

これは6月3日、技術ライセンス先であるスイスのノバルティス社で、技術移転が終了して運用開始となり、一時金収入があったと、今期業績予想の上方修正を発表したからだ。2016年6月期は、売上高42億円(当初計画30億円)で、営業利益23億円(同9.9億円)見込み。売上高営業利益率は54%と、通常では考えにくい水準である。だが、これはペプチドリームにとって、ひとつのステップに過ぎない。

ペプチドリームは2015年12月、東証マザーズから東証一部への上場を果たしており、もはやベンチャーとは言うのもはばかられる。が、最終目標である”自社創薬”を果たしていないという点で、ベンチャースピリットはいまだ失われていない。にもかかわらず、これだけの収益をあげられる秘訣は、同社の持つ”創薬プラットフォーム”にある。

創薬候補の物質を生み出す仕組み

ペプチドリームの創薬プラットフォームである「PDPS」(ペプチド・デリバリー・プラットフォーム・システム)は、ほかにはない技術として、会社設立時から注目を集めていた。PDPSは東京大学大学院理学系研究科の菅裕明教授が作り上げたシステムである。人工RNA触媒の「フレキシザイム」をベースにしている。フレキシザイムと、無細胞下で天然アミノ酸を合成するシステムを組み合わせて作った「鎖状ペプチド」(アミノ酸が2つ以上くっついた物質)を、より安定的な「環状ペプチド」に変換する。さらに、できた長さ4センチメートル程度の小さな試験管内にできた数兆個の環状ペプチドを迅速にスクリーニングし、創薬候補物質を選び出す、というものだ。

こうしたペプチドリームのビジネスモデルは、PDPSを使って、提携先とともに創薬候補物質を作る共同研究と、契約先にPDPS技術を貸し出す技術ライセンスのふたつ。いずれも提携時に、一時金、目標達成の都度入るマイルストーン収入、さらに創薬が成功して販売された後のロイヤルティ収入と、イベントごとに収入が入るしくみだ。通常の創薬ベンチャーでは、最初の薬が承認を受けて販売に至る10年間、ほとんど収入がなく、研究開発費だけが先行する状態が続く。”死の谷”と呼ばれるこの10年を、ペプチドリームはPDPSで埋めることができる。

相手先のノバルティスとは、2010年以降、2年ごとに共同開発契約を延長しているが、それに加えて2015年4月に技術ライセンス契約を締結。その後、スタッフの教育を含めた技術移転を進め、この6月に運用開始の運びとなった。今後、新たな創薬候補物質の決定や、それを使った創薬の進展のたびに、収入が入ることになる。個別の契約内容は非開示のため詳細は不明だが、今回もそれなりの収入を得たと見られる。

2016年6月期の年間目標が、共同開発契約2件、技術導出1件だったところ、実際には、新規共同開発が8件(海外3・国内5)となったうえ、技術ライセンスでも新規に米イーライリリー社と契約締結した。ノバルティスの件がきっかけとされる、今回の株価高騰は、実は引き金に過ぎない。

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