きゃりーとコラボ!西武鉄道「ハジけた」理由 堅いイメージの社風が「攻め」へ大転換

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KPP TRAINは車内のドアに貼られたステッカーもオリジナルデザインだ

そこで主な対象として絞り込んだのは若年層の女性だ。「やっぱりF1層(20~34才の女性)は消費の中心で情報拡散力があるし、そのエネルギーは絶大。そこを主軸にすると、下の年代は追いつこうとするし、上の年代は遅れまいとしてついてくる。結果的に広いターゲットにリーチすることになる」(中山さん)。

2013年には、同社として初めてのテレビCM放映を実施。女優の吉高由里子さんを起用し、翌2014年からはよりテーマ性を高め、金曜夜に出発し土曜日を秩父で過ごす「秩父金よる旅」と銘打ったCMを放映した。これらのCMは話題を呼び、実際に西武秩父駅の乗降客数は2012年度から15年度までで1日平均で約400人増加。秩父の観光関係者も「CMのインパクトは大きい」と話す。

さらに大きな話題を呼んだのは、2015年の「ageHa TRAIN」だ。電車とクラブという一見かけ離れた存在をミックスさせたのは、若年層をターゲットとしたイベントであることはもちろん、知らない人同士が同じ空間で過ごす電車内を楽しめる場所にできないかという発想もあった。例に挙げるのは、昨年ブームとなった「朝活」だ。

「わざわざ早起きして都心に行くのなら、電車の中で趣味や目的が同じ人たちが集まって移動できれば、通勤時間は無駄がなくなる。もしそういうサービスを提供できれば、付加価値をもった鉄道会社が構築できるんじゃなかろうか」(中山さん)。そのきっかけとして、まずは音楽をテーマにした「振り切った」イベントを車内で行うことで試してみたいという狙いがあったという。

「旬」をかぎ取り、打線をつなぐ

「攻めの西武」のイメージが定着しつつある中、中山さんが企画で意識しているのは「旬をかぎ取る」こと、そして「カテゴリーのリーダーと組む」ことだ。例えば、今年度のCMでは、昨年芥川賞を受賞したという「旬」の話題性やファッションリーダーでもあるという点から、お笑い芸人の又吉直樹さんを起用している。ageHa TRAINや今回のKPP TRAINも「ナイトライフならageHaだし、『カワイイ』ならきゃりーさんがカテゴリーリーダー」。そういった各界の代表とのコラボによって「西武自体のリフトアップ(引き上げ)につなげていきたい」と中山さんは語る。

次々と新たなイベントを打ち出すことで「次は何をやるのかと期待してもらえるようにしたい」という中山さんは、話題が途切れないようにする上で大切なのは、野球の打線と同じく「つなぐこと」だと語る。今後も継続して西武線や沿線に愛着を持つファンを育成していくために、斬新な企画による話題の「打線」をこれからもつなぐことができるか。「西武は最近『攻めている』」というイメージが広がりつつある今が正念場だ。

(撮影:尾形文繋)

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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