北海道小2置き去りに学ぶ「しつけの想定外」 「不登校ゼロ」奇跡の小学校長の神言

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――もうひとつの学ぶべきことは?

「過度に感情的になって口にしたことを、子どもが本当に実行したらとんでもないことになる」ということです。「出ていきなさい!」と言って教室を出ていかれて事故に遭ったら大変です。

大人は強い言葉で子どもをしかって「ごめんなさい」という言葉を期待しますが、「何が悪いか」を理解させてもらっていない子どもはそうならないことが多い。ただ、理解できなくても頭を下げている子より、納得できないと暴れる子のほうがエネルギーはあります。まだ寒い北海道で、自分でマットにくるまり、水を飲んで生還した男児はまさしく生きる力があったのだと思います。

「奇跡の学校」のやり方

不登校児ゼロになり「奇跡の学校」とも呼ばれた大空小学校には校則がひとつだけある。

「自分が嫌なことは人にしない。言わない」

それは「たったひとつの約束」と呼ばれ、全児童が守る。破ると担任のもとで、はたまた校長室へ行って「やり直し」をしなくてはいけない。

木村さんは子どもを説教したり、しかりつけたりは一切しない。子どもがやったことの良し悪しをジャッジするのではなく、子どもの気持ちを通訳し整理することにつきあってきた。

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「どう?自分がされたらどう感じる?想像して」

自分がされたら嫌だ。だからもうしないでおこう、というふうに、子どもが自分で納得できるようサポートするのだ。

北海道の男児が発見された翌日の4日には、石川県金沢市で同じく小学2年の男児が母親に山道に置き去りにされ、警察が心理的虐待の疑いがあるとして児童相談所に通告していたことも報道された。1時間後に男児はすぐに発見され無事だったが、20代の母親は「言うことを聞かず、宿題をしなかったから」と話したという。

このケースも、北海道の件も、筆者を含めて「気持ちはわかる」と率直な思いを吐露する親は少なくない。

叩いても、しかっても、怖い思いをさせても、目の前の子どもをしつけなければと焦る。そのことを「子どものため」と言いつつも、振り返れば、悪い子、弱い子に見えるわが子の姿が、実は恥ずかしかったのではないか。そんな反省が残る。

そのうえ、寛容でない社会は「しつけのなってない子」と冷たい目を向けがちだ。よって、親たちは、目の前の子どもが自分の理想と逆であればあるほど「ああ、もうこの子ったら!」の感情が押し寄せる。

「でも、しつけは叩いてもいいなどと言うのは、親の自己満足です。では、叩かれ続けたしつけで目の前の子どもの姿はどうなっていますか?自尊感情が高く、生き生きと自立した姿はあるでしょうか?」

木村先生の言葉に、子育ての本質がにじむ。

わが子がいけないことをしたらひとつ深呼吸。親子ともに成長できるチャンスを生かそうではないか。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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