安倍政権に、アメリカが期待していること マイケル・グリーン氏が語る日本外交(下)

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しかし習近平氏もまた、現実主義者かつナショナリストであり、しかも戦略的思考に長けた人物だ。

現実主義的で戦略的な考え方をするナショナリストの2人が相対することには、プラスの面もある。いずれの側にも譲歩する余地はなく、したがってある意味ではそれが状況を安定化させる。つまりもし一方が弱腰または予測不可能に見えれば、他方が強い態度に出ようとする。しかしもし双方が同程度にしっかりとした動じない姿勢を貫けば、緊張緩和策を模索するインセンティブが働く。どちらの側も緊張が高まるのを望まないからだ。

ともに海洋を重視する戦略的なナショナリストである安倍氏と習近平氏が相対することで、日中両国は緊張緩和に向けた戦略を指向する方向に動くだろう。

安倍氏がこの状況を有利に展開するには、米国をはじめとする海洋諸国との関係を強化しなければならず、韓国と争うことはできない。

中国政府高官と会って感じたこと

安倍氏は深く、個人的にも河野談話に憤慨している。また安倍氏は、中国は自国が優位に立っていると考えていると見ていて、日本の決意をしっかりと示すためにはさらなる手段を講じねばならないと確信している。

尖閣諸島に施設を建設するという議論は、単に大衆迎合主義から出たものではない。この議論の背後には、中国はここ数年間にわたり自国のほうが優位に立っていると考えている、という見方がある。私自身、中国政府の高官たちとの交流の中で、彼らは実際に中国が優位にあるとの見方をしているとの感触を得た。

安倍氏の言説の背景にあるのは、単なる大衆迎合主義のナショナリズムではない。安倍氏は、一線を画したいと考えているのだ。安倍氏とその周辺の人たちは、たとえば、国が尖閣諸島の所有権を取得しただけでは不十分だと考えている。それに加えて、橋下氏や石原氏との、右派の主導権争いがある。

また別の要因としては、かつて米国政府が北朝鮮への対応に関して勝手な単独行動をとったことがあったが、安倍氏には、そのとき北朝鮮政策に関してブッシュ政権に煮え湯を飲まされたとの思いがある。本人からそれを聞いたわけではないが、安倍氏がこの経験から、自分の意見を貫くのがベストだ、との結論に至った可能性はある。

以上のような理由から、安倍氏が今まで主張してきたことの一部を実行に移す可能性を否定し去ることはできない。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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