英米でも中央銀行の役割を巡る論争 新政権から政策変更迫られる日銀(日銀ウォッチャー)

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「財政の崖」が仮に深刻化しないで済めば、来年の米経済は徐々に上向き、14年1月に退任すると言われているバーナンキ議長はタイミング的に「勝ち逃げ」となる可能性がある。しかし、次の議長(イエレンFRB副議長か)は、「魔神を壷に戻せるか?」(先進国の金融緩和のリスクを指摘するBIS(国際決済銀行)のターナー氏の表現)という問題に直面するだろう。残存期間が非常に長い資産を膨大に抱えた状態で、(市場の混乱を抑制しながら)金融引き締めに入っていくことを、FRBは今まで経験したことがないからである。

決定会合で日銀は買入等基金の枠を10兆円積み増しへ

FRBが1月以降の国債買い入れを決定したこともあって、12月19~20日の金融政策決定会合で日銀は、金融機関の貸し出しを支援する金額無制限の新貸出制度の詳細決定と年内スタートに加え、従来の包括緩和策の一環としての資産買入等基金の拡大(長期国債と短期国債を5兆円ずつ計10兆円)を決めると予想している。新貸出制度は十数兆円の利用が見込めると日銀がアピールするなら、合計で20兆円を超える追加緩和となる。

19~20日は衆議院選挙の後だが、日銀はまだ民主党政権下にある。首班指名、組閣は12月25日の週になるもようだ。仮に自民党・公明党が大勝したら、安倍新首相は、組閣後早々に「日本経済再生本部」を設置し、直後に白川日銀総裁と面談を行って、2%以上のインフレ目標や大胆な金融緩和策を日銀に要求すると予想される。

日銀が新政権の要望に応じてインフレ目標を変更したり、資産買入等基金の国債買い入れ対象を今よりも期間の長い国債に拡大しながら資金供給量を拡大したりするか否か、のせめぎ合いは、1月以降の金融政策決定会合になるだろう。
なお、日銀が今年2月に決定した事実上のインフレ目標である「物価安定の目途」は、「2%以内のプラスの領域で、当面は1%を目途とする」と言っている。つまり、2%という数値は日銀の視野の中にもともと入っている。政府との対立を避けるために日銀は、「物価安定の目途」を今よりも2%のほうにウエイトをかけた表現に遠からず変更すると予想している。
 

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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