起業家ジャーナリズムが伝統メディアを救う 「ギーク」を味方にエコシステムを創造せよ

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ジャーナリズムやメディア産業のゆくえを征しかねない強者、グーグルやフェイスブックは、いずれも、この人間関係ビジネスを基盤とするものだと、著者は指摘する。ジャーナリストは、このようなデジタルの力を活用して、自らの見識、情報整理力、意見の提唱、情報流通の場づくりを推進すべきなのだ。

可能性の萌芽として、たとえば、「ハリケーン・サンディ」が米国東海岸を襲った際の報道が例にあがる。マスメディア報道の陳腐さに対し、ソーシャルメディアを活用した住民らの自発的な情報交換、地域や専門テーマに特化した情報メディアの活動が、その間隙を埋めた。

ギーク(テクノロジー)を味方につけよ!

ジェフ・ジャービス(Jeff Jarvis)/ニューヨーク市立大学大学院ジャーナリズム学科教授。タウ・ナイト・センター(ジャーナリズムをめぐる研究と調査を行うシンクタンク)の責任者。「シカゴ・トリビューン」紙記者をはじめ、雑誌者、メディア企業社長などを経験。著書に『グーグル的思考——Googleならどうする?』『パブリック——開かれたネットの価値を最大化せよ』など、その他、数々のブログや寄稿記事を執筆中(撮影:井上未雪)

本書原題は、「贈り物を携えた“ギーク(おたく)”」というものである。「贈り物を持ったギリシャ人には気をつけろ」(トロイの木馬)との古い諺をもじった表現だ。

ネットが生んだ、テクノロジーを駆使する勢力がメディア、ジャーナリズムに近づき、そして席巻する、現代の状況を皮肉るものだが、同時に「ギークがメディア、ジャーナリズムにもたらしてくれる贈り物に本当に感謝している。テクノロジーは、メディアにチャンスをくれる」とも述べる。本書が扱う数々の新しいメディア活動の事例は、ソーシャルメディア、ブログ、検索エンジン、地図など、いずれもが広く一般に提供されているデジタル・ツール(贈り物)を活用したものだ。

ジャーナリズムに求められる「革新」とは、テクノロジーを敵に回すのではなく、味方に引き寄せることであり、独占ではなく、エコシステムの創造にあると、本書は繰り返し伝える。信念の書であると同時に、得がたい実践の書といえるだろう。

藤村 厚夫 スマートニュース 執行役員 メディア事業開発担当

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ふじむら あつお / Atsuo Fujimura

1990年代を、株式会社アスキー(当時)で書籍および雑誌編集者、および日本アイ・ビー・エム株式会社でコラボレーションソフトウェアのマーケティング責任者として過ごす。2000年に技術者向けオンラインメディア「@IT」を立ち上げるべく、株式会社アットマーク・アイティを創業。2005年に合併を通じてアイティメディアの代表取締役会長として、2000年代をデジタルメディアの経営者として過ごす。2011年に同社退任以後は、モバイルテクノロジーを軸とするデジタルメディア基盤技術と新たなメディアビジネスのあり方を模索中。2013年よりスマートニュース株式会社 執行役員/シニア・ヴァイス・プレジデントとして、「SmartNews(スマートニュース)」のメディア事業開発を担当

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