「美食」で自立するスペインの地方都市に学べ 小さな地域であっても「稼ぐ仕組み」は作れる

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海外はすばらしい、日本はダメだ、という話でしょうか。いやいや、とんでもない。日本の地方にも実は、世界にもっと誇るべき文化は山ほどあります。

食ひとつをとっても、今は「日本食」と一括りにされますが、かつては各地域に独自の食文化が形成されており、実は多様な地域食文化があります。経済活動も今でこそ太平洋側中心ですが、かつては北前船をはじめとした日本海側に多数の経済拠点があり、その蓄財と共に極めて豊かな独自の食文化がそこにありました。独自の地野菜、醸造技術が存在し、調味料もしょうゆと味噌だけでない、多様性のあるものを用いていたわけです。

深い地域文化こそ価値あるコンテンツ

先日、新潟県魚沼郡に昨年開業し、話題を集めている宿「里山十帖」を訪れました。江戸時代以前にあった地野菜を地元農家の人々と復活させ、かつての醸造技術も再生させ、それらをもとに質素だけれども、手のかかった絶品の料理を出されていました。トロもA5級の肉も出てきませんが、その旬の地元のものをいただける、まさに日本が誇るべき御馳走がそこにありました。平日にもかかわらず、アジア各地からのお客様もいらしていました。

(左)地野菜、発酵食品を中心とした食事。(右)古い木造建築を活用して宿にしている

トロとA5級の肉を出せばアジアの観光客は満足する、なんて簡単な話ではないわけです。むしろもっと深い地域文化性こそ、これから伸びるアジアの観光需要においては、価値のあるコンテンツです。地域で受け入れ可能なほどの少数の観光客であっても、着実に観光消費を稼ぎだす仕組みは、小さな地域でも十分に可能なのです。

今の日本は観光客数を追い求め、ビバ爆買といった「観光」を推進していますが、それも長くは続かないでしょう。

しかし、かつての日本、いや日本の地方独自に形成されていた文化をテコにした、「稼ぐまち」を考えれば、実はもっと視野は広がります。その根は全国が目指すような単一の都市像ではないでしょう。地方が多様な成長シナリオを持ち、自ら稼ぎ、さらに独自の文化をいま一度育てる。バスク地方の都市をはじめとして欧州の地方都市から学べきは、日本がかつて持っていた地方独自の「自主独立」の姿勢かもしれません。

そう考えれば、可能性は無限であり、人口が減るから地方は終わりだなんてことはないことも自ずとわかるのではないでしょうか。

【参考文献】高城剛「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか」

 

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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