ブラック保育園が跋扈してしまう2つの要因 制度の限界や現場のひずみを理解しているか

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まずは行政の問題です。今年3月、東大阪市の社会福祉法人が運営する保育園で不適切な会計処理が行われていたという問題がニュースになりました。元園長と元副園長であった夫妻が業務上横領をしていたということで市が刑事告発したのです。不適切な会計処理は15年間にわたり、架空の職員給与や修繕実績のない園舎の修繕費などで合計1億1125万円。これに関して市長は「誠に遺憾。保育が適切になされていたかも疑問だ。きっちり指導、監査していく」とコメントを発表しました。

このような社会福祉法人の不適切な会計処理問題は、後を絶ちません。意図的に不正会計を行う園経営者に原因があるのは当然ながら、定期監査を行っている行政がそれを発見できていないという問題もあります。

上記の例では、行政は定期監査を行っているはずなのに15年間発見できていませんでした。それに対して市長は「保育が適切になされていたかも疑問だ」とコメントしていますが、このコメント自体が現行の保育制度の問題点のひとつを表しています。本来ならば、行政監査により保育が適切に行われていることを担保しなければならないからです。

保育施設はどこの施設を選んでも一定以上の質が確保されるように、最低基準として「保育所保育指針」を定めています。平成27年4月より運営基準として各自治体で条例も定められています。

しかし、それらが現場で実行されているかを確認するための行政監査が機能しなければ、絵に描いた餅になるのは目に見えています。

人材の質にも問題あり

二つ目に保育行政に関わる人材の質の問題があります。最近、突然湧き出ているニュースとして、保育施設整備が近隣住民の反対運動によって中止や延期になっていることがあります。この問題の原因は、行政と施設整備者の対人交渉能力の低さにあると考えられます。対人交渉能力とは、決して難しいものではなく、聞かれたことに対して、誠実に答えたり、問題点を整理して解決策を提示するなどしたりする能力です。いわゆる「ファシリテーション技術」のようなものです。

一般企業の場合、長のポストに就くためには、仕事をそつなくこなし、仕事のミスはなるべく少なく、犯罪に関わるような致命的なコンプライアンス違反はせず、会議をまとめ、部下を統率し引っ張っていけるような能力を持っていなければなりません。その能力が相対的に劣る人材は、ポストに就けず、同期からも後輩からも出世で抜かれる可能性があります。しかし保育の現場では、その仕組みが機能していない施設のほうが多いように思えます。

特に社会福祉法人の場合、施設長の息子や娘がいきなり施設長になることも多いのですが、その人が施設長の能力を兼ね備えているかどうかはわかりません。そもそも離職率の高い私立の保育施設の場合、1年目から施設長になるまで育つような人材は皆無といってもいいでしょう。保育士は国家資格であるがゆえに制度的に最低基準はクリアした人材ですが、施設長には資格制度はないので、質が担保されているとはいえません。

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