平壌の商品見本市にみる北朝鮮経済の現実 経済制裁下でも消費意欲は向上している

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シュリンアッサール食品工業グループのアミール・フセイン副会長

「わが社の製品を紹介したいことと、北朝鮮企業との合弁などビジネス展開を考えて初めて参加した」。こう語るのはイラン「シュリンアッサール食品工業グループ」のアミール・フセイン副会長。シュリンアッサールは製菓を中心とする食品メーカーだ。

フセイン副会長は「北朝鮮は貧困に苦しみ、文化も低く、電気もないと聞いていた。実際にそうなのだろうと思っていたが、来てみたらまったくそうではなかった」と笑う。手ごたえを感じているようで、「北朝鮮と活発に貿易を行って、この展覧会にも継続して参加したい」と言う。

対外環境の不透明さで「5カ年戦略」の成否は?

第7回党大会で金正恩・朝鮮労働党委員長は、「経済建設と核武力建設の併進路線」を強調、核保有に対して自信を見せた一方で、経済政策の方向性についての言及も多かった。

大会で発表された「総括報告」では、「対外貿易において信用を守り、(どこかの国への)一辺倒をなくし、加工品の輸出と技術貿易、サービス貿易の比重を高める方向へ貿易構造を改善すべき」「合営・合作を主体的立場で実利があるように組織し、先進技術を受け入れ、国の経済発展を後押しするようにすべき」との発言を行った。また2013年に「経済開発区法」を制定、設置・開発を国内で進めている経済開発区についても、「有利な投資環境と条件を保障し、その運営を活性化すべき」とも述べた。

ただ、上記のような対外経済に関する言及は、2012、13年ごろから現れてきた金党委員長の経済政策・方針からそれほど踏み出したものではない。制裁が続いていることで不透明な環境の中では、新たな、かつより具体的な内容には言及しないまま、既存の方針を再確認しただけ、という指摘もある。

だが、平壌を中心にモノが出回り、それを購入できる市民たちが増えているのは、北朝鮮経済の一つの現実でもある。また、北朝鮮国内の軍事関連企業が徐々にその技術を民生品に応用し生産する「スピンオフ」を始める企業が増えているとの指摘もある。購買力を持った北朝鮮国民が増えるなか、彼らは今後も展覧会などを通じて消費意欲をさらに高めるのは間違いなさそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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