過去最多1504人競う「ドタバタ選挙」の舞台裏 党首演説からは見えない候補者の等身大の姿

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「負けっぷり」が肝心 来夏に迫った参院選

JA新潟中央会は前回選挙では全6区で自民公認候補を推薦したが、全員落選するなど散々だった。そのため、今回は特定政党にこだわらず、「TPP反対」を踏み絵に是々非々で判断する方針を示していた。

JA新潟は各候補者にTPPに関する質問状を配布。「TPPを推進する人は応援できない。玉虫色の表現を見極め、これまでの行動・発言も踏まえて候補者を判断させてもらう」(幹部)。一方、鷲尾氏はJAや農家への配慮と、TPP積極姿勢の党方針の狭間で揺れた。「TPPについては慎重に判断すべきだ。条件がわからない中で推進というのは理解できない。国益の確保を大前提に国民的議論の深まりの中で考えていきたい」と話す。結局、JA新潟は公示直前の12月3日、従来と同じく自民公認6人全員の推薦を決めた。

新潟2区は世界最大の柏崎刈羽原発(稼働停止中)を抱える選挙区でもある。衆院選に先立つ11月中旬、地元の柏崎市と刈羽村ではダブル首長選が行われた。刈羽は「原発との共生」を掲げる現職が4選。柏崎は再稼働に慎重な現職が当選したが、原発容認派からも支持を受けた。両氏とも「原子力規制委員会が出す安全基準を見守る」との考えで一致しており、原発に依存する地元経済と安全の狭間で有権者も揺れた。

鷲尾氏は「安全基準にかんがみて原発再稼働は認めるべきだ。このままでは電気代が高騰して産業リスクになりかねない」と断言。30年代に原発稼働ゼロを掲げる党公約を「非現実的」と切り捨てる。これに対し、自民の細田氏は「地域住民の理解を得られることが重要。当面は見守る」というスタンス。原発政策に限れば、両氏と党方針が「ねじれ」にあるようにも見える。

実は自民は民主の鷲尾氏の引き抜きを一時画策。自民の新潟県議は「彼はこのまま民主党にいても潰されてしまう。党から出ればいい。無所属として出るなら対立候補を立てない」として鷲尾氏に秋波を送った。だが、尖閣諸島問題で見解が合わないことがわかって断念したという。

攻める自民、守る民主という構図だが、仮に自民が過半数を獲得しても参院では半数に届いていないため、安定政権への道のりは険しい。ある民主の立候補者はつぶやいた。「負けるにしても負けっぷりがある。来年夏の参院選にどうつなげるかだ。完敗したら次がない」。

(撮影:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年12月15日号)

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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