ロジカルな頭より、クレイジーな情熱 新世代リーダー 高島宏平・オイシックス社長

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「僕はいやいや何かをやる能力が極めて低くて、『やりたい!』と思わないと、非常にパフォーマンスが低い。自分のやり方はロジカルなところもあると思うんですけれど、根っこは情熱が必要、クレイジーな情熱が必要」。つまり、何をやりたいかを“感じ”て、それをどう実現するかを“考える”というのが髙島のやり方だ。

僕の出る幕じゃない、ということは全然ない

創業から12年、髙島の心を揺さぶる大きな出来事があった。東日本大震災だ。

震災が起こった一週間後、髙島は会社のメンバーに黙って、一人で宮城県の女川に向かっている。津波によって町全体が壊滅的な被害を受けており、「まだ行方不明者の捜索が続いているような状況だった」。

現場を目の当たりにした髙島がまず感じたのは、「これは、ある一部の人たちに任せて何とかなる程度のダメージじゃない」ということだ。

「これは元気のある人すべてが、全力で頑張って立て直すべきたぐいの出来事。僕の出る幕じゃない、ということは全然ない。すべての人が、元気ある人がみんなで頑張らないと、大変な出来事だなというのは感じましたね」。未曾有の大災害を目の当たりにして、髙島は改めてこう思った。「12年前にオイシックスを作っておいてよかった」。

「作ったばっかりの会社だったら、自分たちがいかに生き残るかで精いっぱい。逆に設立から30年とか経っていると、動きが重くなってしまっていたかもしれない。10年ちょっとというタイミングで、そういう(震災の)場面に直面したので、ある程度身軽に、ある程度影響力を持って動けると、(震災が起こった)比較的直後に思いましたね」。

これまで、生産者と消費者をつなぐ役割を果たしてきたオイシックス。「お客様の安心・安全と、生産者の事業的な継続性や成長性を両立させることが、僕らが一番得意とすること」。

震災直後の3月18日にはすでに、野菜、肉、卵などの放射能検査を導入。翌12年1月には、放射性物質「不検出」を確認した商品だけを集めた「ベビー&キッズコース」を作り、食品中の放射能影響を心配する消費者のニーズに応えられる体制を作った。

一方、東北の生産者を支援するため、一般社団法人「東の食の会」を設立。食の安全・安心への意識が高い生産者やその生産物を取り上げ、オイシックスのサイトなどを通じて販売している。たとえば12年10月には三陸の「でかくてぷりぷりのホタテ」、“デカプリホ”を発売。生産者は宮城県の若手漁師、阿部勝太さんだ。「食べていい食べ物が流通する仕組みを作る、これはすごく普通のことですよね」。

髙島が感動したのは、学生や若手の社会人がいったん自分の仕事や学業を捨て、被災地にボランティアとして入っていったこと。「震災直後の(被災者の)生活支援は、学校や会社では体験できない“修羅場”。その中で自分で判断して、自主的に動く経験をしたのは、ものすごい日本の財産だろうと思っています。修羅場って人を成長させると思うんですよね」。

世間で言われているよりも、若者はずっと元気だと髙島は言う。「その人たちが東北地方での役目を終えて、次に何にチャレンジして、気持ちをふるわせることができるかが大事。平常状態に戻って、少し物足りないと思っている方は、オイシックスに来てほしいと思っています」。

髙島はにやりと笑って言う。「修羅場をいっぱい用意します」。

 

(撮影:大澤 誠)
 

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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