高齢者が若者から仕事を奪うという「ウソ」 高齢者の仕事が増えれば若者の仕事も増える

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米国経済と高齢化の問題に関しては、3つの誤解が長年にわたって語られている。

3つの誤解

誤解1:高齢者は働かないから、経済に負担

「高齢者依存人口指数(old-age dependency ratio)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。この数字は、15歳から64歳までの人口(労働人口)と65歳以上の人口(引退して、働いていない人口)を比較するものだ。この指数は、65歳以上は誰も働かないとの前提で計算されるので、恐ろしい数字になる。

しかし、伝統的に引退年齢とされる歳を過ぎても、何百万人もの米国人が雇用されているか求職中である。その理由はさまざまだ。ベビーブーム世代はそれ以前の世代と比べて、教育水準も高く、健康でもある。サービス業中心の経済においては、働くことはそれほど肉体的な負担にならない。少ない貯蓄を補うために、収入を得る必要がある――。

理由が何であれ、60歳以上の男性の労働参加率は、1996年の26%から現在では35%になっている。女性では、同じく15%から25%に増加した(ブルッキングス研究所のエコノミスト、バリー・P・ボスワースとゲイリー・バートレス、およびジョージワシントン大学のシニア・リサーチアシスタント、カン・ザングの調査による)。

労働統計局によると、2024年には65歳から75歳の男性の労働参加率は34%、女性では26%になる可能性があるという。

こうした、人々が長く働く傾向を考慮して、世界銀行は「成年依存人口指数(adult dependency ratio)」という数値を開発した。この指数は、15歳以上の働いている人(求職中の人も含む)に対する働いていない人(かつ求職中でもない人)の割合を示すものだ。

この予測では、2030年までの数値は、女性や高齢者の労働参加が増えているこれまでの傾向を反映して算出され、2030年から2060年までは実質的な引退年齢が10年延びることを前提に算出されている。予測では、この指数は比較的安定して推移し、その後ゆっくりと減少することが見込まれている。高齢者依存人口指数に比べると、心強い予測となっている。

誤解2:高齢の労働者は生産性が低い

これはよく言われることではあるが、調査を見ると異なる状況が見えてくる。スタンフォード大学長寿研究センターのディレクター、ローラ・カーステンセンは「高齢者があまり仕事をうまくできないという証拠はまったくない」と言う。

たとえば、ミュンヘン高齢化経済学センターのアクセル・ボルシェ・スパンらは、メルセデス・ベンツのドイツのトラック組立工場のデータを分析した。工場におけるエラー率を調べると、30歳未満の労働者ではエラー率が明らかに高いことを示す証拠が得られたが、60代になると間違いが増えるという証拠はまったく見つからなかった。生産性は65歳の引退時まで向上したのだ。

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