キャリアという"偶然"に必要なもの 効率的キャリアが一番弱い

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キャリアという“偶然"には「目標」より「習慣」が必要

自分がどういう仕事をどのようにしていきたいかは、社会に出て試行錯誤しながら経験から学んでいくものである。いろいろな人と付き合って、これは駄目だと思ったり、痛い目にも遭ったり。そうやって結婚にたどり着くまでの過程は無駄でも何でもない。それと同じだ。

ましてや変化がますます大きくなり先が読めない時代において、キャリアは自分の思いどおりにつくれるものではないことを前提とすべきだ。

これはスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が「個人のキャリア形成の約8割は偶然の出来事で左右されている」と「Planned Happenstance Theory(計画的偶発性理論)」で証明しているとおりである。

もっとも、だからといって「偶然に左右されるなら、何をしても無駄だ」ということではない。クランボルツ教授は同時に「より良い偶然がたくさん起きている人とそうでない人がいて、その違いは普段の行いにある」とも述べている。つまり、キャリアは偶然に左右されるが、いい偶然が起こる人と起こらない人がいて、それは普段の行いの違いだということだ。

重要なのは「目標」より「習慣」である。大まかな方向性だけ決めておいて、あとはその場その場で正しいと思うことをやり続ける。これからのキャリアでは、そのほうが、実は戦略的なのである。

勝ち負けより、自分らしい幸せなキャリアをめざす

もう1つ加えておきたいことがある。それは、「自分らしいキャリアをつくる時代」だということだ。

キャリアに「勝ち負け」はない。しかし「幸せなキャリアと不幸なキャリア」はある。この2つの違いは何か。「勝ち負け」は多くの人に共通の物差しで測るが、「幸・不幸」は1人ひとりが違う物差しで判断するということである。

そうなってくると、自分にとって幸せなキャリアとは何か、自分が幸福になる自分らしいキャリアをいかにつくるかという点が問題になり、自分らしさをどこに求めるのかという点がポイントとなる。

(写真:梅谷 秀司)

 

 

 

 

 

 

高橋 俊介 慶應義塾大学 SFC研究所上席所員、キャリア論の第一人者

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たかはし しゅんすけ / Shunsuke Takahashi

1954年東京都生まれ。東京大学工学部航空工学科を卒業後、日本国有鉄道に入社。プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニ-東京事務所に入社。1993年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国ワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリス・タワーズワトソン)の代表取締役社長に就任。社長退任後は、個人事務所ピープルファクターコンサルティングを通じ、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援等を行う。2022年4月より慶應義塾大学 SFC研究所上席所員。キャリア形成、人材マネジメント、リーダーシップ、働き方改革などに確かな知見を有し、本質を見抜く目に定評がある。

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