米国の経済危機の源流にあるもの−−ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長

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米連邦準備制度理事会(FRB)は米国経済が沈没することを必死に阻止しようとしている。その背景には二つの事情がある。一つ目の事情は、米国が数カ月前までリセッション(景気後退)を回避できると一般的に信じられてきたことだ。しかし現在、米国経済が景気後退に陥るのは確実の状況である。もう一つの事情は、FRBの政策がなかなか効果を発揮しそうにないことだ。FRBは金利を引き下げ、資金繰りに窮している銀行に潤沢な資金を供給した。にもかかわらず、危機はますます深刻さを増しつつある。

そもそも米国経済の危機はFRBが引き起こしたものであり、ブッシュ政権の楽観的な観測に基づく政策によって深刻さを増した。危機を引き起こした主犯は、グリーンスパン前FRB議長であり、彼はバーナンキ現FRB議長に危機につながるシナリオを引き継いで辞めていった。とはいえ、バーナンキ議長もグリーンスパン時代のFRB理事であり、議長就任後もサブプライムローン問題に対する処方箋を描くことができずにいる。

現在の金融危機の直接の原因をさかのぼると、2001年に行き着く。ネットバブルが崩壊し、同時多発テロが起こった年である。当時、FRBは不況に対処するため、3・5%だったフェデラルファンド金利を1%にまで引き下げた。いわばカネの蛇口を全開にしたのである。しかもFRBは、その低金利政策を長期にわたって継続した。

金融緩和は借り入れコストを引き下げ、資金調達を容易にする。同時に為替相場を下落させ、インフレを加速させるリスクもある。こうした事態がすべて米国で起こったのだ。

しかも今回の特徴は、新規借り入れが住宅市場に集中したことである。金利の引き下げは生活者に住宅の購入を促した。さらに銀行は新しい金融の仕組みを作り、信用力の低い人向けの住宅ローンを大幅に増やした。FRBもそうした問題の多い融資を規制しなかったのだ。その結果多くの低所得者層が、頭金が必要なく利払いも繰り延べることができる住宅ローンを利用し続けた。

こうした“サブプライムローン”の普及に伴い住宅ブームが起こり、それは自己肥大化していった。銀行は住宅価格の上昇を背景に融資を続け、ローン返済が滞れば住宅価値の評価を引き上げて、さらなる融資を続けた。このような方法は住宅価格が上昇するかぎり有効である。だが住宅価格は天井を打ち、下落し始めた。銀行は貸し出し条件を厳しくし、もはや融資額を下回る価値しかない住宅を差し押さえ始めたのである。

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