オバマ「広島演説」に世界の注目が集まるワケ 米国の責任をどこまで滲み出せるか

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まず、太平洋戦争中の日本の行為がある。日本は占領したアジアの国々の人々に対して極めて残虐だった (この現実は、連合国の攻撃の犠牲になった日本の民間人への同情を薄めた) だけでなく、不誠実な形で真珠湾を攻撃して米国を先の大戦に引き込んだ。その結果、多くの米国人はその後何が起ころうとも、日本の自業自得だと考えている。

さらに、日本がこれまで示してきた自国の戦争犯罪に対する遺憾の意は不十分だ。大戦中に軍への性的サービスを提供させた朝鮮人「慰安婦」の問題に関する中途半端なお詫びが示す通りだ。原爆が大戦終結を早めたことで多くの命が救われたとの見解が広く受け入れられているのに加え、日本がお詫びを受けるべきだと主張する米国人はほとんどいないだろう。

しかし、話はそれだけでは済まない。世界における米国の独自の役割を勘案すると、同国の行為は、たとえ米国人の多数が表面的には間違いだと考える場合でも、どこか正当化できると受け取られる傾向がある。ベトナム戦争や、最近ではサダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているとの誤った根拠に基づいてイラクに侵攻したことがまさにそうだ。謝罪をせずに過ちを犯す権利は、「例外主義」という米国人の大切な原則なのだ。

しかし、米国は必ずしも謝罪表明に消極的だったわけではない。1988年には、第二次世界大戦中に収容所に入れられた日系米国人に賠償金を支払う法案が米国議会で可決され、当時のレーガン大統領が署名した。レーガンの後を継いだジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、真珠湾攻撃50周年の1991年12月7日に、収容者へのお詫びの書簡を書いた。

ブラントの「再現」は期待薄だが

オーストラリアやカナダ、英国など他の多くの国々の指導者たちは、過去の過ちへの謝罪を表明してきた。中でも最も有名な例は、1970年12月にドイツのブラント首相が示したものだ。ワルシャワ・ゲットー記念碑を訪れたブラント (彼は実際にナチスと戦った人物でもある) は、ドイツを代表して跪いて首を垂れ、静かな深い謝罪を行った。

これは衝撃的な出来事だった。第二次世界大戦中に犯した恐ろしい悲劇の後にドイツがグローバルな立場を取り戻した瞬間を選ぶならば、まさにこの瞬間だろう。

ブラントの謝罪は、品位を損なうようなものでは全くなかった。その反対に、高揚感を与えるものとなった。オバマがブラントの振る舞いを繰り返すとは誰も想像しないだろうが、広島での彼の言葉や態度は世界中で綿密に調べられることだろう。そこに多くの民間人の生活を破壊した米国の責任を大統領が認識していることのしるしが含まれることを祈りたい。

アリエフ・ネイヤー オープン・ソサエティ財団名誉会長

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アリエフ・ネイヤー / Aryeh Neier

ジョージ・ソロス氏が立ち上げたオープン・ソサエティ財団(OSF)名誉会長。人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ設立者の1人

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