なぜ不動産「最高益」に株価が反応しないのか マイナス金利の恩恵大も、"環境急変"に警戒

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だが、その先はどうか。実はマンション市況に、足元で変調の兆しが見え始めている。新築マンション販売は過度な値上がりによって、郊外ファミリータイプを中心に苦戦する物件が目立ってきた。契約率の低下を嫌気して、各社が発売を先延ばししている物件が相当数あるものと見られている。

さらに、来年4月に予定されている消費増税前の駆け込み需要を当て込んで準備されている物件も一定数ある。もし消費増税が再度先送りされて駆け込み需要がなくなると、予期せぬ過剰在庫が生じる懸念がある。

警戒される金融政策変更のリスク

マイナス金利政策の反動も厄介だ。不動産業はマイナス金利政策の恩恵を受けやすい。巨額な借入金の利払いが低減することや、住宅ローン金利の低下が消費者の購買意欲を高めることが意識され、導入発表直後は各社の株価が急騰した。マイナス金利による資産価格押し上げ効果で保有不動産の含み益も膨らんでいる。今年3月末の大手3社の保有不動産の含み益は、前年同月比でそれぞれ3500億~4000億円ほど増加した。

しかし、その後の株価は迷走気味だ。安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁の任期が満了する2018年までは超低金利が続き、不動産業界は好調を維持するというシナリオが、半ば定説となっている。しかし、むしろそこにリスクを感じる向きもある。

「もし金融政策が変われば、不動産市場に甚大なインパクトがある。その時に即時に対応できるように体制を整える」。そう語るのは、大阪地盤の中堅・ダイビルの玉井克実社長だ。ダイビルは、東京での不動産投資用に投資枠を設けてきたが、不動産価格の高騰を受けて慎重姿勢に転じた。今年4月に開発専門の部署を立ち上げたが、そのミッションは“掘り出し物”の発掘と、環境急変時に即応することだという。

好業績にもほとんど反応しない大手不動産の株価は、今後の不動業界の先行きを暗示しているのかもしれない。

茨木 裕 東洋経済 記者

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いばらき ゆたか / Yutaka Ibaraki

1975年生まれ。「週刊東洋経済」編集部所属

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