屍者の帝国 伊藤計劃、円城 塔著 Books Review

✎ 1〜 ✎ 32 ✎ 33 ✎ 34 ✎ 最新
拡大
縮小

伊藤計劃の遺作を導入部に円城塔が450ページの快著に仕立て上げた。魂の抜けた死体に擬似霊素とプログラムを書き込ん(インストール)で屍者(ししゃ)として蘇らせる技術が定着した19世紀末、若きワトソン博士はロンドンからアフガニスタン、日本、米国と、英国政府の間諜として探索の旅に出る。フランケンシュタイン、カラマーゾフ、レット・バトラー、川路利良、グラント将軍、ダーウィンまで登場し、虚実綯(な)い交(ま)ぜ物語は躍動する。重要な役割を果たすコンピュータがパンチカード式なのも心憎い。

アフガンでは屍者たちの銃撃戦、維新の日本では剣戟(けんげき)、米国では列車上の格闘とサービス精神も満点だ。生命とは、人間とは、言葉と意識とはといった哲学的問いが波乱万丈の冒険譚(たん)の中で収斂(しゅうれん)していく。兵士や労働者、記録係など意識と感情を欠いて働く屍者を現代に読み替えるとき、どんな答えが待ち受けるのか。めっぽう面白くてずしりと重い傑作SFである。(純)

河出書房新社 1890円

  

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT